Living in Peace Microfinance Project

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コラム

ポートフォリオについて

American Economic Association(全米経済学会)が刊行するAmerican Economic Journal: Applied Economics(全米経済誌:応用経済学)の2015年1月号は、マイクロファイナンス特集で、マイクロファイナンスの貧困削減効果に関する6本の論文を掲載しています。

エスター・デュフロとアビジット・バナジー著の『貧乏人の経済学』やディーン・カーランら著の『善意で貧困はなくせるのか?』で取り上げられている研究も含まれています。このマイクロファイナンス特集をCenter for Global Developmentがブログ『The Final Word on Microcredit?』で簡潔にまとめているので、紹介いたします。 本ブログのタイトル『マイクロファイナンスは貧困削減に効果があるのか?』に対する回答は、『まだまだ最終的な答は出ていない』と言えそうです。

貧困削減の定義を、①お金を借りられるようになったかどうか、②ビジネスをはじめたかどうか、③所得の増加、④消費の増加、⑤社会福祉的な影響、と5通りにし、ランダム化比較実験(※RCT、臨床試験で使われ、治療効果を厳密に計測する手法)によって、マイクロファイナンスが貧困削減に効果があるかどうかを調査しました。その結果が次の表です。

①お金を借りられるようになったかどうかは、6つ全ての研究において、統計的に有意(=偶然ではなさそう)に正の効果がありました。つまり、発展途上国の人々はお金を借りる権利を享受できるようになった、ということです。一方で、③所得の増加は有意な差が見られず、④消費の増加は増える場合も減る場合も差が見られないこともありました。要するに、大まかにまとめると、マイクロファイナンスは経済的な意味で、効果があったとは言えないようです。

マイクロファイナンス機関を支援するLiving in Peaceとしては、これは嬉しい研究結果ではありません。そして、それは筆者も同様なよう。今回の結果からマイクロファイナンスに価値がないと判断するのは違う、と以下のふたつの観点から主張するのです。

一つ目は、自由の価値です。筆者は、マイクロファイナンスの研究者David Roodmanの言葉『if development is freedom, and freedom means a bigger choice set, then microcredit is successful development. People are choosing to borrow and invest in ways they couldn’t before.(意訳:もし開発が人々の自由を意味し、そして自由がより多くの選択肢を享受することを指すならばマイクロファイナンスは開発として成功している。人々は、以前はできなかったお金を借りる・投資する、という行為ができるようになるのだから)』を引用しつつ述べます。①の「お金を借りられるようになったかどうか」に正の効果がある時点で、マイクロファイナンスは発展途上国において価値があるのではないか。少なくとも、人々はビジネスを始めるなど新しいことに挑戦できるのだから、と。①の効果は、日本で感じられる以上のものなのかもしれません。

二つ目は、マイクロファイナスの効果は地域やケースごとに異なり、不均質であるという点です。次の図『マイクロクレジットの効果は小さくも大きくもなる(筆者意訳)』では、6つの調査について収入と消費がどれだけ変化したかを図示しています。横軸は年間の米ドル(比較できるように購買力平価で換算済み)です。収入の効果を見ると、ボスニアは700ドル増加でモンゴルはゼロ。消費の効果を見ると、ボスニアは700ドル減少でモンゴルは600ドル増加という風に、大きくバラつきがあるのが分かりますつまり、効果があるともないとも言えないのです。加えて、女性だけに特化したマイクロファイナンスローンもあれば、個人向け、グループ向けのローンもある。利子も異なる。そもそも条件や前提が違うのだから、効果が違うのは当然だとも筆者は述べます。

マイクロファイナンスの貧困削減効果は未知数。まだ最終的な答は出ていません。「自由の価値」のように数値化できないものもありますし、調査結果に非常にバラつきがあるからです。そのうえで、筆者は今回、6本の論文が掲載されたことはマイクロファイナンス業界の大きな前進である、と前向きにブログを締めくくります。

最後に、私のこれまでカンボジアに2回、ベトナムに1回訪問経験に基づいた、マイクロファイナンスの効果に関する考えをまとめます。マイクロファイナンスの価値を日本の住宅ローンに例えてみます。住宅ローンの返済が苦しくなる人もいれば、きちんと返済できてより良い生活を送れる人もいます。住宅ローンによって借り手が必ずしも経済的に豊かになることはないかもしれませんが、自分の住みたい家を選択することができて、人生が豊かになります。 マイクロファイナンスの利用者が住む発展途上国の地方において、モダンな工場やオフィスが建設されるには、道路や電気や水道など、最低限のインフラが必要です。短期的にそれが実現できない状況において、彼らが自力で豊かになる得る手段として、マイクロファイナンス以上に普及している支援やサービスはおそらく存在しません。 限られた機会ですが、エネルギッシュに働く現地の借り手の方たちを訪問しました。もしマイクロファイナンスがなかったら、この人達は自分のポテンシャルを持て余して、不完全燃焼の日々を送っていたかもしれません。少なくとも彼らにとっては、マイクロファイナンスによって豊かになる機会が提供され、それをうまく活用しているように見えました。

マイクロファイナンスは万能薬ではないので、貧困削減に効果がある場合とそうでない場合があります。今後さらに研究が蓄積されることで、どのような人には貧困削減効果があり、どのような人に効果がないのか明らかになれば、より貧困削減効果の高い金融サービスや支援のデザインに役立つと期待されます。

文責:菅原崇@takashifc
参考資料https://www.aeaweb.org/articles.php?doi=10.1257/app.7.1http://www.cgdev.org/blog/final-word-microcredit