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コラム

ローンだけじゃないマイクロファイナンス

ローンだけじゃないマイクロファイナンス〜カンボジアにおけるマイクロインシュアランスの事例〜

「マイクロファイナンス」と聞くとついついマイクロクレジット(小口融資)だけを考えがちですが、ファイナンス=金融ですから、本来は融資に限らず小口の金融サービス全体を指す言葉です。

現状ではまだ融資事業がほとんどですが、少しずつ預金や保険などの金融サービスも登場しています。将来に向けてお金を貯蓄したり、もしもの時に備えて保険に入ったり、どれも人々の生活の安定のために重要な金融サービスですね。

今回は特にカンボジアにおけるマイクロインシュアランス(小口保険)について、2つの事例を紹介したいと思います。

一つめは、2011年末からカンボジアでマイクロインシュアランスを提供しているKPMIという小口保険会社です。KPMIはフランス系保険会社Prévoirの子会社にあたり、Prévoirはフランスとカンボジアの他に、ポルトガル、ポーランド、ブラジル、ベトナムにも拠点を持っています。カンボジアでは財務省による小口保険に関する規制や仕組み作りが2011年にひとまず完成し、KPMIはその仕組みにのっとって公式に認可された最初の小口保険会社です。

KPMIは直接個人に対して保険を提供するだけでなく、カンボジアの3つの中堅マイクロファイナンス機関と連携して、ローンの借り手に対して小口保険を提供しています。このサービスでは、年間5ドルの保険料を払うと、病気になった際の医療費が最大150ドルまで補償されます。(150ドルはカンボジアの1人当たりGNI(国民総所得)の約4分の1に相当します。)KPMIと提携している医療機関であれば、医療費を一度立て替える必要もなく、直接KPMIが医療機関に支払ってくれます。立て替えるお金を用意するだけで困難な場合もありますから、これはありがたい仕組みですね。

※KPMIの小口保険サービスに関してさらに詳しく知りたい方は以下の公式サイトやニュース記事をご参照ください(英文)
http://www.pkmi.asia/index.php
http://www.phnompenhpost.com/special-reports/insurance-poor
http://www.phnompenhpost.com/special-reports/micro-insurance-takes-hold

二つめに紹介するのは、LIPが協力するファンドの投資先であるSamicというマイクロファイナンス機関の借り手に提供されている小口保険サービスです。CHCというNGOが提供するMEADAという保険プログラムなのですが、もともとSamicもCHCをルーツとする機関なので、新たに外部団体と提携したわけではなく母体を同じくする仲間と一緒にやっているということになります。もともと2007年にパイロット事業として始まり、千人以上の顧客を獲得。今では約2万人に利用されているそうです。

MEADAの主なサービスは、借り手が死亡してしまった際にローン残高の支払に充てられる生命保険です。例えば、900ドルのローンを借りた場合、年間15ドルの保険料を払えば、万一死亡した際にローン返済が免除されるそうです。保険に加入していれば、一家を支える稼ぎ手がもし死亡してしまっても、残された家族はローンの返済に追われずにすみます。日本でも住宅ローンを借りる時にこのような生命保険に加入することになっていますね。(団体信用生命保険と呼ばれています。)

※Samic, MEADAの小口保険サービスに関してさらに詳しく知りたい方は以下の公式サイトやニュース記事をご覧ください(英文)
http://www.samic.com.kh/index.php?option=com_content&view=article&id=14&Itemid=14&lang=en
http://www.phnompenhpost.com/business/micro-life-insurance-rise

※また、LIPが作成したSamicのアナリストレポートでもSamicの小口保険サービスについて概要を紹介しています。
http://www.living-in-peace.org/_common/img/pdf/LIP_Report_No8.pdf

※さらに、カンボジアの事例ではありませんが、LIPが協力するファンドの投資先であるベトナムのTYMというマイクロファイナンス機関でも保険サービスを提供しています。こちらもLIP作成のアナリストレポートで概要を紹介しています。
http://www.living-in-peace.org/_common/img/pdf/LIP_Report_No9.pdf

このように徐々に発展しつつあるマイクロインシュアランスですが、まだまだ問題も多いようです。2013年に国連が実施した調査では、調査対象となった302人のカンボジア人のうち、17%が現在何らかの小口保険を利用している一方、なんと70%もの人々が過去に小口保険サービスを契約したことがあるものの現在は利用を辞めてしまっていることが明らかになりました。この人々が具体的にどの機関のどのような保険を利用していたのかは不明ですが、サービスの使い勝手の悪さや、契約の複雑さなどが辞めた理由として挙げられています。国連はカンボジア政府や金融機関に対して、より貧困層のニーズに沿った保険サービスを開発するよう求めています。

※詳細は以下のニュース記事をご参照ください(英文)
http://www.phnompenhpost.com/business/micro-insurance-needs-revamp-un

最後に、このニュース記事から、国連のエコノミストの発言を紹介したいと思います。

「カンボジアの貧困層は(病気や不作など)何らかの危機に瀕した時に、マイクロクレジット(小口融資)に頼りがちになっています。このようにして多額の債務を負ってしまうと、世代を超えた貧困の連鎖を巻き起こしてしまいます。」 “low-income communities have become dependent on microfinance loans in times of crisis. This will undoubtedly result in over-indebtment and may lead to intergenerational poverty transmission.“

マイクロクレジットは貧困削減に効果的だと考えられており、実際に今回紹介したSamicを始めとして、LIPが協力するファンドの投資先であるマイクロファイナンス機関でも、ローンの活用により生活が大きく改善した借り手が数多くいます。一方で、病気や不作などの際にむやみにローンを借りすぎてしまうと、返済に追われて貧しくなり、さらに子どもの世代も返済に追われてしまう、という貧困の再生産につながりかねない危険もあります。ローンだけではなく保険も含めて適切な金融サービスが普及し、それによってローンもより安心して効果的に活用できるようになると、貧困削減へのさらなる後押しになりそうです。

今回は実務の観点からマイクロインシュアランスを紹介しましたが、学術的な観点からマイクロインシュアランスを説明した本として、「貧乏人の経済学」第6章 “はだしのファンドマネージャ” がオススメです。ファンドマネージャが資産運用の際に様々なリスクに直面するように、貧困層(章のタイトルの”はだし”はメタファー)も天候、健康、失業、食料など様々なリスクに日々さらされています。この章の最後では、発展途上国で保険が普及すれば、先進国からの補助金も減り、貧困層も自力でリスクヘッジできるのではないか、と展望がまとめられています。興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。

(伊藤紘子)