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コラム

CSR(企業の社会的責任)のような慈善的な動機で企業は儲けられるのか?

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Craig Howell, DSC07004, Checking out the in-ride photos
http://goo.gl/B0agbz

 

CSR(企業の社会的責任)のような慈善的な動機で企業は儲けられるのか?~Pay-What-You-Wantによる価格付けと慈善的な寄付による実験~

日本経済新聞の人気コンテンツ『私の履歴書』で、2013年12月はマーケティングの大家である経営学者フィリップ・コトラーが取り上げられ、氏のCSRに対するモチベーションが紹介されていた。企業が社会に貢献すること自体を否定する人はあまりいないだろうが、ビジネスにおける社会貢献は、そういった社会性だけでなく、営利性も両立することが求められるだろう。

ビジネスにおいて、営利性と社会性は両立するのだろうか。その一つの答えとなり得る論文として、『ヤバい経済学』のサイトFreakonomics(注1) で、CSRに関するGneezy(2010) の『共有化された社会的責任:支払いたいだけ支払う方法と慈善的な寄付に関する野外実験』(注2)(以下、Science論文)が紹介されていた。この論文は、CSRのような社会貢献によって収益が生み出されるのかどうか、慈善的な動機が商品価値を持つのかを検証している。

本ブログでは、まずCSRに関する2つの考え方について触れた上で、Science論文に登場するPay-What-You-Want(「支払いたいだけ支払う方法」の意味。以下、PWYWと略記)について説明する。続いて、この論文の結果を要約して、CSRのような慈善的な動機で企業は儲けられるのかという問いに対する一つの可能性を紹介する。

コトラーとフリードマンのCSRに関する考え方

フィリップ・コトラーは昔からCSRに関心を持っており、日本経済新聞『私の履歴書』の中で次のように言及している(注3)。

『「マーケティングに携わる人間は自らの活動が世界の資源など社会に及ぼす影響についてもっと責任感を持つべきだ」と強く思った。こうした考えを深く発展させるために企業が社会に対してどのような活動をすべきか、企業の社会的責任(CSR)の研究に取りかかることにした。』
『企業は道路、港湾設備などをはじめとするインフラを利用して収益を上げ、社会から多大な恩恵を受けている。その見返りとして企業はなんらかの形で社会に奉仕すべきだと思っていたからだ。』
『私と同じ考えを持つ研究者も多く登場した。ステークホルダー(利害関係者)という言葉を広めたエドワード・フリーマンが提唱した道義的責任の思想だ。「この国はあまりにも物質主義と自己中心主義に偏り過ぎた。企業には魂が必要だ。」これこそCSRの本質を突いていた。』

その一方で、コトラー氏の恩師であり、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンは、CSRをコストのようにみなし、否定的な立場であった。

『企業による寄付行為の是非について、かねてことさら強く反対していたのは私のシカゴ大学時代の恩師でノーベル経済学者のミルトン・フリードマンだった。彼は「ルールの範囲内で自らの資源を活用し、利益拡大のための活動に従事することに尽きる。CSRに積極的な企業は、寄付行為をせずに研究開発など競争力強化に投資する企業に太刀打ちできなくなる」と主張した。』

コトラー氏とフリードマン氏のどちらが正しいのだろうか。その答えとなり得るScience論文を紹介する前に、まずはScience論文のキーワードPWYWについて整理しよう。

PWYWについて

PWYWとは商品やサービスの値段を供給者が設定せずに、需要者である顧客が支払いたい価格で購入するシステムのことだ。通常、支払いたい価格には0円も含んでいる。日本ではまだ耳慣れない言葉だが、ストリートパフォーマンスや募金やチップなどの事例が挙げられる。
ビジネスシーンにおけるPWYWの事例として最も有名なものの一つが、レディオヘッドの 7枚目のアルバムin rainbowsである。Wikipedia(注4) によると、『ダウンロード販売はバンドの公表によれば平均約4ポンド(約1000円)で購入された』(注5)とのことである 。この予想外の成功によってフォロワーが現れ、 St. Louis and ChicagoのカフェではいくつかのメニューでPWYWを採用したそうだ。
PWYWでは実際に購入されるまで販売価格が決まらないため、企業として売上目標が立てにくく、消費者にとっても買い物が不便になる可能性がある。PWYWが成功する条件として、『スマート・プライシング 利益を生み出す新価格戦略』 (注6)の『第1章 「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」方式の価格設定』にでは以下の5点が挙げられている。

  1.  生産コストの低い製品
  2.  公平感を持つ顧客
  3.  納得感のある幅広い価格帯
  4.  売り手と買い手の良い関係性
  5.  競争的な市場

※ブログ執筆者翻訳

レコード市場が競争的かどうかの判断はともかく、CDそのものの原価は安く、ファンがアーティストをリスペクトしていれば、CD販売においてPWYWはうまくいくのかもしれない。
PWYW戦略と慈善的な寄付で儲かるのか?

それでは本流に戻ろう。Science論文では、PWYW戦略と慈善的な寄付を組み合わせてより多くの収益を生み出すことができるのか、ディズニーリサーチとコラボして検証している。利用された商品は、アミューズメントパークでアトラクションを楽しんでいる間に撮影される次のような写真である。

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イメージ画像の出典
http://bit.ly/Qx30TT

 

このような写真を利用し、寄付の有無とPWYW方式の効果について次の2つの仮説を検証するために(a)〜(d)4パターンの価格付けによって、どのパターンが最も高い売上を達成するのか分析した。

仮説1:慈善的な寄付で顧客はより多く支払うのか?

  • (a) 【通常の販売方式】価格は12.95ドル、寄付なし
  • (b) 【伝統的なCSR】価格は12.95ドル、支払額のうち50%を寄付

仮説2: PWYWで顧客はより多く支払うのか?

  • © 【PWYW方式】価格はPWYW方式、寄付なし
  • (d) 【新しいCSR、共有化された社会的責任】価格はPWYW方式、支払額のうち50%を寄付

これら4パターンの価格付けの意図を確認しよう。仮説1では、販売価格を定価12.95ドルに固定し、寄付の有無によって売上が増えるのかどうかを比較検証している。(a)は寄付のない通常の販売方式である。(b)は支払額のうち50%がユニセフや赤十字のような団体に寄付されるというオプションが付いている。仮説2では、寄付の有無だけでなく、PWYW方式によって顧客はより多く支払うようになるのかを検証している。©は寄付がなく、顧客が自由に支払額を決められるPWYW方式である。(d)はPWYW方式に(b)のような寄付オプションが付いている。Science論文では 固定価格で寄付オプションのある(b)を伝統的なCSRとし、(d)をShared Social Responsibility(「共有化された社会的責任」を意味。以下、SSRと表記)として新しいCSRと呼んでいる。

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出典 Science論文 Figure 1, p.326

その結果がFigure 1にまとめられている。棒グラフは左から(a)〜 (d)それぞれの平均販売価格を示している。(d)のPWYW方式で寄付オプションあり(新しいCSR= SSR)が最も高い販売価格(0.198ドル )と なった。これは(b)の固定価格方式で寄付オプションあり(伝統的なCSR)の販売価格(0.071ドル )に比べ、統計的に有意な差になっている。従って、PWYW方式と寄付オプションを併用するSSRによって、企業は伝統的なCSRよりも多くの収益を生み出し得ることが示されている。
Gneezyらは、このPWYW戦略と慈善的な寄付を活用したマーケティングを「負け組が存在しないシナリオ 」として評価している。企業としてディズニーはより多くの売上を得られ、社会貢献のための寄付金が生み出され、顧客は寄付によって幸福度が増した。こういった負け組が存在しないシナリオ を描くことは、通常の経済学では珍しいからだ。
上述のScience論文は、慈善的な動機が商品価値を持ち、売上向上に貢献し得ることを示唆している。つまり、ビジネスにおいて、通常の商品よりも社会貢献や慈善的な要素を含む商品がより多く売れる可能性を示している。今後この知見をマーケティングに応用するならば、ミクロの個人レベルの分析によって、どのような属性(年収や家族構成など)を持つ人がそういった要素を高く評価するのかを明らかにすることが有用であろう。
LIPでは貧困削減というミッションのもと、発展途上国におけるマイクロファイナンスファンドの調査・企画に取り組んでいる。今回紹介したScience論文では、貧困削減に貢献するファンドの『貧困削減』という要素により、そのファンドの商品価値が増す可能性が示された。より多くの人にLIPの活動に共感してもらえるように、マイクロファイナンスの貧困削減効果の説明責任も果たしていきたい。
参考資料

  • Gneezy, A., U. Gneezy, LD Nelson and A. Brown (2010) Shared social responsibility: A field experiment in Pay-What-You-Want pricing and charitable giving, Science, 329, 5989, 325-327.
  • Supporting Online Material for Shared Social Responsibility: A Field Experiment in Pay-What-You-Want Pricing and Charitable Giving, Ayelet Gneezy,* Uri Gneezy, Leif D. Nelson, Amber Brown
  • http://bit.ly/1hYU8y5 Wiki イン・レインボウズ
  • http://freakonomics.com/2013/10/28/not-so-dismal-after-all/ Not So Dismal After All

(注)

  1. Freakonomicsブログは、『善意で貧困はなくせるのか?』のディーン・カーラン教授や『その数学が戦略を決める』のイアン・エアーズ教授など、著名な学者らによって更新されている。取り上げられるトピックも幅広く、マイクロファイナンスも含む開発経済や寄付や教育などLIPにとっても重要なものが多い。今回取り上げるブログ記事“Freakonomics Blog: Not So Dismal After All”『結局のところ、それほど悲惨ではない』では、Science論文の概要について説明している。
  2. Shared Social Responsibility: A Field Experiment in Pay-What-You-Want Pricing and Charitable Giving
  3. 日本経済新聞 2013年12月18日 私の履歴書 フィリップ・コトラー 17
  4. http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%A6%E3%82%BA
  5. 余談だが、ブログ執筆者の@takashifcは相当なレディオヘッドファンであり、興奮のあまり0円で延べ3回ダウンロードして、友人に頼まれてCD-Rにも焼いた。

(菅原崇)