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コラム

ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク

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Source:
http://www.cgap.org/blog/six-dos-now-responsible-investors
Photo Credit: Gayanath Wimaladasa

 

ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク 

―「11の指標」と「国際基準」―

 

1. ソーシャル・パフォーマンス評価の重要性

マイクロファイナンスのサービスを行うマイクロファイナンス機関(以下、MFIと表記)は、2012年末時点で世界に約3,700存在し、その顧客数は2億人を超えると報告されており、マイクロファイナンスの市場規模は拡大を続けています(注1)。このように多くのMFIが存在する中で、果たしてどういったMFIが良いMFI、悪いMFIといえるのでしょうか。MFIを評価する基準にはどんなものがあるでしょうか。

投資家が株式や社債に投資するとき、通常は投資する企業の財務業績を元に投資先の良し悪しを判断して、投資の意思決定をします。MFIについても、財務業績を評価することは事業の継続性・将来性等の観点からもちろん重要なのですが、財務指標の良好なMFIが貧困削減に貢献しているかというと必ずしもそうとはいえません。2010年にはインド最大のMFIであるSKSマイクロファイナンスがIPOで3.54億ドルという多額の調達に成功しましたが、その2ヶ月後にアンドラ・プラデシュ州政府から農民数十人の自殺がSKSの強引な取り立てを原因とするものだという主張がなされたこともあり(注2)、MFIの商業化が大きく問題視されるようになりました。本来の目的である貧困層・低所得者層の支援という視点が希薄化して、顧客の財務状況を考慮しない融資の返済プラン等を作成し、結果として返済が滞ると過剰な取り立てを行うようなMFIも中には存在することが明らかになってきたのです(注3)。

こうしたMFIのミッション・ドリフト(過度の商業化により貧困削減というマイクロファイナンス本来のミッションから逸脱していること)が表面化する事態を受けて、マイクロファイナンス関係者の中では、ファイナンシャル・パフォーマンスに加えて、ソーシャル・パフォーマンス(社会的業績)を評価・測定することの重要性が広く認識されています(注4)。MFI専門の格付機関のみならず、大手格付機関までもが、それぞれ独自のフレームワークを使って、MFIのソーシャル・パフォーマンスを評価しています(注5)。

今回はソーシャル・パフォーマンスを評価するフレームワークのうち、代表的な2つのツールを紹介します。まず1つは、MIXとソーシャル・パフォーマンスタスクフォース(the Social Performance Task Force/以下、SPTFと表記)によって開発された11のソーシャル・パフォーマンス指標です(注6)。もう1つは、同じくSPTFによるソーシャル・パフォーマンス管理(以下、SPMと表記)の国際基準(the Universal Standards for Social Performance Management/以下、USSPMと表記)です(注7)。これらのツールを具体的にみることで、ソーシャル・パフォーマンスを評価するとは一体どういうことなのか、理解ができると考えます。

2. 11のソーシャル・パフォーマンス指標

2011年MIXとSPTFは、MFIのソーシャル・パフォーマンスを測定するための11の指標を開発しました。
各指標の説明は以下の通りです。

1.ミッションと社会的目標
(MFIが定めている社会的ミッション、ターゲット、達成目標)

2.ガバナンス
(SPMの研修を受けている役員数や、ソーシャル・パフォーマンスをモニタリングする正式な委員会の有無)

3.商品・サービスの範囲
(金融商品から非金融商品まで、MFIが提供している商品・サービスの範囲)

4.顧客に対する社会的責任
(MFIが適用しているSmart Campaignの顧客保護原則(注8)の数)

5.顧客に対するサービスにかかるコストの透明性
(MFIによる適用金利の説明方法)

6.人的資源と従業員のインセンティブ
(MFIの従業員に関するポリシー)

7.環境に対する社会的責任
(貸付先企業が環境に与えている影響度を評価する仕組みの有無)

8.貧困層へのアウトリーチ(注9)
(貸付前の顧客の貧困水準と、貸付後の水準に変化があったか)

9.貸出方法による顧客へのアウトリーチ
(顧客に合わせた貸付方法で、より多くの顧客にサービスを提供できたか)

10. 貸付した企業と雇用機会創出
(貸付先企業の数、及び貸付先企業によって生み出された雇用)

11. 顧客定着率
(MFIの顧客定着率)

11の指標を見るとMFIの経営実績・財務的健全性には直接的に繋がりにくい印象を受けますが、MFIがSPMの部署を置いているか、顧客保護をどれだけ順守しているか等、MFIが本来のミッションに基づいた事業を行っているかを見る上で有効な指標が並んでいます。MIXは世界中の各MFI別に上記の指標のデータを公開しており、投資家を始めとする業界関係者がソーシャル・パフォーマンスのデータを収集・比較分析するためのプラットフォームとなっています。これらの指標が充実するほど、貧困削減に貢献しているMFIを容易に特定できるようになります。

3. SPTFの「国際基準」

最近ではソーシャル・パフォーマンス評価の手法を統一しようという動きがマイクロファイナンス関係者の中で起こっていますが、その大きな動きの1つとして、2012年6月SPTFはSPMの国際基準(the Universal Standards for Social Performance Management)を発表しました。

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(出典:the Social Performance Task Force)

USSPMはMFIが実践すべきことを6つの領域に列挙します。

  1. 社会的目標を定義し、モニタリングすること
  2. 経営陣や従業員が社会的目標の達成についてコミットメントをするこ
  3. 責任ある顧客管理をすること
  4. 商品、サービス、提供方法やチャネルを、顧客の必要性と選好に合わせること
  5. 責任ある従業員管理をすること
  6. ファイナンシャル・パフォーマンスとソーシャル・パフォーマンスを両立させること

USSPMの特徴はその作成経緯です。世界中のMFI、投資家、MFI評価機関、その他利害関係者が長期に渡って統一的な基準を作るために議論を続け、互いのニーズを明確にした結果として、USSPMは作成されました。そのためUSSPMには、各関係者が実践したベストプラクティスが体系的にまとめられています。上記6つの基準だけではやや抽象的な説明なので、MFIがミッションを達成するために具体的に何をすべきだと書かれているのか、もう一歩掘り下げて見てみましょう。

例えば、第1の基準「社会的目標を定義し、モニタリングすること」は、大きく1Aと1Bに分解されています。

1A: MFIが社会的目標を達成するための戦略をもっていること
1B: MFIが社会的目標の達成度をモニタリングするために、正確な顧客別データを管理・公開していること

そのうち1Aの基準を達成するためのベストプラクティスは6点挙げられています。

①ターゲットとする顧客の金融へのアクセスを増加させ、利益をもたらすというミッションがMFIの戦略に言及されていること
②MFIの戦略がターゲットとする顧客の具体的な特徴を定義していること
③MFIの戦略が社会的目標を定義していること
④MFIが顧客の貧困水準を測定できるターゲットを定義していること
⑤MFIの戦略が社会的目標の達成に向けた進捗を測る指標を定義していること
⑥MFIの戦略が商品、サービス、提供方法やチャネルによってどのように社会的目標を達成するかを明示していること。

以上の通り、1つ1つの基準を細かく分解して、詳細な点まで言及されていることが分かります。USSPMの出発点は上記6つの領域ですが、関連するベストプラクティスの数は80以上にものぼります。これらの詳細について興味のある方は実践ガイドを参照下さい(注10)。

4. 今後の期待

今回紹介した指標・基準を見ることで、ソーシャル・パフォーマンスを評価するということが具体的にどういうことか、イメージを掴めたのではないでしょうか。これらのフレームワークが普及することで、ソーシャル・パフォーマンス評価に係るMFIのデータが整備され、各関係者がMFIのソーシャル・パフォーマンスに関して良質な情報を得られるようになり、マイクロファイナンス・セクター全体の取引コスト(情報取得コスト・審査コスト)の削減といった効果が期待されます。これらのフレームワークは、マイクロファイナンス業界にとっての重要なインフラとなりつつあるのです(注11)。

ただ忘れてならないことは、MFIの外部機関がこうした枠組みや基準を決めることがゴールではなく、より重要なことはMFIがそれらの基準を実践し、具体的に本来の貧困削減というミッションの達成に向けて行動を起こすことです。SPTFも基準を実践させることの重要性を認識しており、USSPMを発表した1年後の2013年6月、基準を実行させるために必要な10の教訓をまとめたうえで、情報共有しています(注12)。MFIの中でもSPMの体制を組織として位置づけているケースはまだ一部に限られており、MFIがこれらの基準を実践していくには時間がかかると思われます。

このようにソーシャル・パフォーマンス評価は本格始動したばかりですが、MFIを貧困削減という本来のミッションに立ち返らせるうえで重要な取組みです。MFIのソーシャル・パフォーマンス評価のあり方を考えることは、マイクロファイナンスを通じてどのように貧困削減や金融へのアクセス拡大を達成できるのか考えることに繋がります。Living in Peaceは、最新のソーシャル・パフォーマンス評価手法の調査を継続し、そのトレンドを発信していきたいと考えています。また貧困削減や貧困層への金融アクセス拡大というミッションに基づいたファンドを今後も企画していくために、ソーシャル・パフォーマンス評価を投資先MFIに対して実践し、机上の空論に終わらない、実務に則した評価手法を洗練させていきます。今回は代表的なソーシャル・パフォーマンス評価手法の簡単な紹介でしたが、フレームワークをMFIに実際に適用する上での課題等、より実務的な観点からのレポートを今後発信していければと思います。

LIPマイクロファイナンスフォーラム2014
~収益性とソーシャルインパクトの両立に向けて~
こちら

 

【参考文献】

(Edited) Joanna Ledgerwood. 2013. The New Microfinance Handbook–An Institutional and Financial Perspective, World Bank.

【注釈】

(1) MICROCREDIT SUMMIT CAMPAIGN:
http://stateofthecampaign.org/2014/03/21/2014-report-number-of-clients-reached/

(2) Abhijit V. Banerjee and Esther Duflo. 2011. Poor Economics: A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty(A・V・バナジー&E・デュフロ 「貧乏人の経済学」、山形浩生訳、みすず書房、2012)

但し同書によれば、自殺した農民57人の返済は滞っていなかったから、SKS融資担当者が彼らを死に追いやったのはあり得ないという伝聞もあったとのこと。

(3) 成田哲朗 「マイクロファイナンス:重要性を増すソーシャル・パフォーマンスという視点」(「国際金融」1237号)

(4) ファイナンシャル・パフォーマンスとソーシャル・パフォーマンスの双方を重視することは、「ダブル・ボトムライン」(Double bottom line)と呼ばれます。

なおSPTFの定義を借りるならば、ソーシャル・パフォーマンスはMIFのミッション(=貧困削減)を(形だけではなく)効果的に実践に移すことです。

“the effective translation of a microfinance organization’s mission into practice“
http://sptf.info/sp-task-force

(5) Planet Rating:マイクロファイナンスに特化した格付機関の1つです。
http://www.planetrating.com/EN/social-performance-rating-methodology.html

Moody’s:
http://www.moodysanalytics.com/Products-and-Solutions/Credit-Research-Risk-Measurement/Microfinance/Social-Performance-Assessment

(6) MIX(Microfinance Information eXchange):米国NPO。2002年設立。MFIに関する情報プラットフォーム(MIX Market: http://www.mixmarket.org/)を提供しています。

SPTF:2005年設立。世界中のMFI関係者のメンバーから構成されています。
http://sptf.info/

Social Performance Indicators:
http://www.themix.org/social-performance/Indicators

(7) http://sptf.info/spmstandards/universal-standards

(8) http://www.smartcampaign.org/about/smart-microfinance-and-the-client-protection-principles

(9) 英語で手を伸ばすことを意味する。福祉などの分野における地域社会への奉仕活動、公共機関の現場出張サービスなどの意味で多用される。(Wikipedia)

マイクロクレジットの場合、MFIが貸付サービスの提供を通じて、潜在的な利用希望者である貧困層に手を差し伸べ、彼らに金融へのアクセスを実現させる取り組みのことを指します。

(10) The Universal Standards for Social Performance Management Implementation Guide (PDF)
http://sptf.info/images/universal%20standards%20for%20spm%20implementation%20guide.pdf

(11) 下記のCenter for Financial Inclusion Blogでは、①MIX及び格付会社がファイナンシャル・パフォーマンスについての透明性と基準を提供し、②SPTF等がソーシャル・パフォーマンスについての透明性と基準を提供したとして、両者をマイクロファイナンス業界のインフラとしています。
http://cfi-blog.org/2014/03/11/microfinance-industry-needs-an-infrastructure-fix/

(12) CGAP. Top 10 Lessons on Social Performance Management for Microfinance.
http://www.cgap.org/news/top-10-lessons-social-performance-management-microfinance