気候変動がもたらすマイクロファイナンスの在り方

チャプター1:そもそも気候変動って起きているの?

目次:

  1. はじめに
  2. 気候変動とは?
  3. 気候変動が及ぼす影響
  4. 気候変動が起きている事実
  5. 気候変動の原因
  6. 気候変動による実際の被害
  7. 経済的損失の実例

 

 

1. はじめに

 途上国の貧困問題を考える上で気候変動が注目されています。気候変動によって引き起こされる自然環境の変化が農業や漁業などの出来に大きく影響したり、台風などの異常気象によって金銭的蓄えが十分ではない人の生活が脅かされる事例が増えてきたためです。こうした中、経済的弱者に対して金融サービスを提供するマイクロファイナンス機関が気候変動リスクの観点から支援を行う事例も出てきています。

「気候変動リスクに対してマイクロファイナンスができること」と題して、全3回に分けてブログを配信していきます。第1回目となる今回は、気候変動問題の概要を解説します。第2回目では、気候変動が貧困に与える影響について、そして最終回では、マイクロファイナンス機関が行う支援の例を紹介します。

 

 

2. 気候変動とは?

 気候とは地球を覆う大気の平均的な状態を意味します。気候変動問題とは、大気の状態が一定期間に大きく変化していくことに起因する自然環境の変化と、それにより人間などの生物が被る様々な問題のことを言います。

大気が変化する要因は大きく分けて二つあります。エルニーニョ/ラニーニャ現象や太陽エネルギーに代表される自然要因と、温室効果ガスに代表される人為的要因です。太陽から大気が受け取ったエネルギーは大気と接する宇宙空間へ放出されることで均衡が保たれますが、近年は温室効果ガスの影響で大気からの放出が減り、大気の温度が上昇する傾向が指摘されています。

 

 

3. 気候変動が及ぼす影響

 代表的な気候変動問題として、北極海海域の氷床が融解することで発生する海面上昇や、気温上昇による作物生産の減少や生態系の変化が挙げられます。また、台風などの自然災害の勢力が増したり発生頻度が高くなるといった問題も含まれます。これらの問題に対する国際的な対策の必要性が高まり、1995年から気候変動枠組条約加盟国による締約国会議(COP)が毎年開催されるようになりました。2015年のCOPで採択され、2016年に発効されたパリ協定では、温室効果ガスの削減目標等を定められ、196ヶ国が参加しています。そして、2018年には国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から「1.5℃度目標」レポートが発表されました。同レポートによれば、2018年時点の世界平均気温は産業化以前と比較して約1.0℃上昇しています。このペースの上昇が続くと仮定すると、2030年~2050年頃には1.5℃上昇し、さらに2100年には、約3~4℃上昇すると推測しています。 

同レポートは、気温の上昇の度合いによって生態系や地球環境がどの様な影響を被るかについても予測しています。平均的な気温上昇が1.5℃の場合と2℃の場合で影響の差異を比較しています。0.5℃の違いですが、その影響は大きく異なります。例えば1.5℃上昇の場合、日本国内での猛暑日(35℃以上の日)の年間発生回数は12日~24日ですが、2℃上昇の場合では24日から30日になると言われています。2 また農業や食料安全保障の観点で見ると、2℃上昇の場合、最大約4億人が影響を受けますが、1.5℃に抑えられた場合には最大3600万人まで抑えられます。海の生態系を支えているサンゴ礁は、2℃上昇の場合、2100年には絶滅または99%が消滅する可能性があります。それが1.5度上昇の場合は、消滅を90%以下に抑えることができます。1

 

影響

1.5℃

2℃

水不足

現状+約5億人が水ストレス

(2000年時点で38億人)

現状+約6億人が水ストレス

生態系

地表の7%で生態系が変化

(70~90%のサンゴ礁が消滅の危機)

地表の13%で生態系が変化

(99%のサンゴ礁が消滅の危機)

沿岸地域

3100~6900万人に洪水のリスク

3200~7900万人に洪水のリスク

食料

3200~3600万人に作物減産の影響

3.3~4億人に作物減産の影響

健康

35~45億人に熱波の影響

54~67億人に熱波の影響

熱病の罹患率が上昇

(IPCC 1.5℃特別報告書を参考にLiving in Peaceが作成)

 

 同レポートでは、このような気候変動現象を最小限に抑えるための目標として、2030年までの気温上昇を産業化以前と比較して1.5°C未満、あるいはそれ以上に抑制することを掲げています。また、その目標実現のためには「2030年の温室効果ガスの排出量を、2010年と比較して約45%削減することが必須条件である」と結論付けています。1

 

 

4. 気候変動が起きている事実

 では、実際にどの程度の気候変動が起こっているのでしょうか。気候の状態を観測するためには、 「平均気温偏差」を用いて大気温の変化の程度を検証することが一般的です。平均気温偏差とは、ある期間の平均気温を基準(比較基準値)として、比較対象の年の平均気温がどの程度乖離しているかを示す値です。比較基準値と比較して温度が上昇していれば温暖化の傾向があり、逆に下がっていれば寒冷化の傾向があると判断します。

 2020年1月の米国のNASA(アメリカ航空宇宙局)とNOAA(アメリカ海洋大気庁)の公表レポートによると、2019年は1880年の観測開始以来で2番目に温暖であったと結論付けました。3 

(GISS NASAのデータを参考にLiving in Peaceが作成)4                                    

 また同時に公開された上記グラフによると、1951年から1980年までの平均気温を比較基準値とした場合、1980年から現在まで、徐々に気温が上昇していること、また2019年では、基準値と比べて1℃上昇していることが窺えます。

 

 

5. 気候変動の原因

(Carbon BriefよりLiving in Peaceで日訳を追記)5 

このような地球規模の気候変化について、オックスフォード大学とリード大学の共同研究は、「温暖化と寒冷化を引き起こす要因は様々あるものの、現在これらは主に温室効果ガスによって引き起こされている」と結論付けています。5

上記のグラフでは、世界平均気温の変化を要因分解しています。まず気温を下げる要因として、青色の線で示されているエアゾルが挙げられます。エアロゾル自体が光を反射したり吸収したりすることにより地表へ届く太陽光を減少させる効果で地球上の気温を冷やします。一方で気温を上昇させる要因としては、赤色の線で示されている温室効果ガスが挙げられます。最も代表的な温室効果ガスは二酸化炭素ですが、その他メタンや水蒸気なども含まれます。1960年頃から温室効果ガスが急増したことに伴い、世界の平均気温(灰色の線)が大幅に上昇している様子が窺えます。

 

 

6. 気候変動による実際の被害

この記事を読んでいる方も、国内で桜の開花時期が早まっていることや夏に35℃以上を超える日が続くのが日常になっていることなどを、身近に感じていらっしゃるかもしれません。その他にも集中豪雨 (数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨) が増加しています。2010年から2019年までの集中豪雨の平均年間発生回数 (約327回) は、統計期間の最初の10年間である1976~1985年の平均年間発生回数 (約226回)と比べて、約1.4倍に増加しています。6

(気象庁のデータを参考にLiving in Peaceで作成)6

温暖化の影響は海にも及びます。地球の70%の地表を占める海は、温暖化によって発生した熱全体のうち約93%を吸収しています。そのため、海面水温が上昇します。下記の表は1981年から2010年を平年値と設定した場合の乖離を表しています。7

(気象庁のデータを参考にLiving in Peaceで作成)7

海面水温の上昇は台風に影響します。海面から発生する水蒸気が多くなることで台風の規模が大型化し、勢力が大きくなると言われています。2017年にメキシコ湾で発生した、ハリケーン・ハービーはハリケーン・カトリーナと並ぶ、被害額がもっとも大きかった台風となりました。NOAAの調査により、ハービーがメキシコ湾に停滞していた時の気温は、平年よりも最大4℃ も高かったことがわかっています。8 海面水温の上昇が台風などの自然災害を直接引き起こすことを示す研究結果はまだ少ないですが、既存の自然事象と組み合わることで異常気象の発生数が増加し、大規模化する事例は数多く観測されています。

人間社会を脅かすもう一つの事象は、海面上昇です。海面上昇は、気温の上昇により北極の氷床や北欧の山岳地帯にある氷河が溶解し、淡水が海に流れ込むことで発生します。その他、海面水温の上昇による熱膨張も海面上昇の要因の一つです。 下記のNOAAのデータによれば、1993年と比較して海面は平均9cmも上昇しています。9 

(Climate.govよりLiving in Peaceで日訳を追記)9

また、海面上昇の程度はエリアによって大きく異なることがわかっています。

(IPCC 第四次レポートより)10

上の図は2007年に発表されたIPCC第4次評価報告書によるものです。1955~2003年の間に、海水面が1年に何mm上昇したかを表しています。インド洋付近の海面がもっとも上昇しており、濃い赤色で示されています。特に南インドやバングラデシュの国土は海抜が低い傾向があるため、海水面が上昇することで国土が浸水し、地下水や国土が塩害などの被害を受けます。その結果、農作物が育てられなくなります。

下の図は2018年のバングラデシュ工科大学の調査によるものです。塩害の被害を受ける地域が年々北上していることが分かります。紫色の線は1973年ごろに観測された塩害を受けた範囲、黒線が2000年、赤線が2009年です。この土地での農業運営が今後できなくなると予測されています。11

 

(Mechanisms and Drivers of Soil Salinity in Coastal Bangladesh より)11

 

 

7. 経済的損失の実例

 気候変動が経済界に及ぼす影響も懸念されています。2020年のタボス会議前に発表された「Global Risk Report」では『今後10年における経済リスク』のトピックスにおいて、世界的なリーダーや政策立案者200人にアンケートを取り、以下二つの評価軸でまとめました。

(1)今後10年間で発生する可能性のあるグローバルリスク上位10位

(2)発生時に与える影響の大きさを基準にした上位10位 

(Global Risk Report 2020 より)12

緑色の枠は環境問題・気候変動を示しており、発生可能性および、影響度でも上位を占めています。このような位置づけをされた背景には温暖化が他の自然現象と相乗して発生する事象が、大きな経済的損失を引き起こすようになっている実態があります。同レポートは、2018年度だけで1650億ドル(約18兆円)もの損失が発生したと報告しています。12さらに、このまま気候変動に何も対策をしない場合には2兆ドルもの損失が起きるであろうと予測しています。また、2018年のGerman Watchのレポートによると、2018年の1年間で日本では3度の異常気象が発生しました。12 同年7月には熱中症による緊急搬送人数が5万人を超え、同月6~8日の3日間に西日本で1日200mmもの降水量を記録し、大規模な河川の氾濫が発生しました。13 そして、9月4日に上陸した台風21号(ジェビ)は近畿地方に上陸し、関西国際空港が一時閉鎖されました。経済損失は西日本豪雨と台風21号だけで約230億ドル(約2兆5000億円) に上りました。14

 では、このような災害が経済的に弱い立場の国で発生した場合、どの程度の影響がもたらされるでしょうか。次回のブログでは気候変動が貧困に与える影響について紹介します。

【出典】

1.IPCC, 2018: IPCC1.5℃特別報告書. pg 20,26,213,247,453

2.環境省, 2018: 気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~.41pg

3.”NASA, NOAA Analyses Reveal 2019 Second Warmest Year on Record.” NASA’s Jet Propulsion Laboratory,

Earth Science Communications Team, 15 1 2020, climate.nasa.gov/news/2945/

nasa-noaa-analyses-reveal-2019-second-warmest-year-on-record/. Accessed 21 May 2020.

4.GISTEMP Team, 2020: GISS Surface Temperature Analysis (GISTEMP), version 4. NASA Goddard Institute for Space Studies. Dataset accessed 2020-05-2 at https://data.giss.nasa.gov/gistemp/.

5.Hausfather, Zeke. “Analysis: Why scientists think 100% of global warming is due to humans.”

Carbon Brief, 13 12 2017, www.carbonbrief.org/

analysis-why-scientists-think-100-of-global-warming-is-due-to-humans. Accessed 21 May 2020.

6.”大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化.” 気象庁, www.data.jma.go.jp/

cpdinfo/extreme/extreme_p.html. Accessed 21 May 2020.

7.”海面水温の長期変化傾向(全球平均).” 気象庁, www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/

shindan/a_1/glb_warm/glb_warm.html. Accessed 21 May 2020.

8.Tom Di Liberto,“Reviewing Hurricane Harvey’s catastrophic rain and flooding,”National Oceanic and Atmospheric Administration, September 18, 2017. https://www.climate.gov/news-features/event-tracker/reviewing-hurricane-harveys-catastrophic-rain-and-flooding.Accessed 21 May 2020

9.Lindsay, Rebecca. “Climate Change: Global Sea Level.” Climate.gov, 20 Nov. 2019, www.climate.gov/

news-features/understanding-climate/climate-change-global-sea-level. Accessed 21 May 2020.

10.IPCC, 2007: IPCC第四次評価報告書. pg 416

11.Salehin M. et al. (2018) Mechanisms and Drivers of Soil Salinity in Coastal Bangladesh. In: Nicholls R., Hutton C., Adger W., Hanson S., Rahman M., Salehin M. (eds) Ecosystem Services for Well-Being in Deltas. Palgrave Macmillan, Cham

12.German Watch, GLOBAL CLIMATE RISK INDEX 2020. pg 7,36

13.”猛暑や豪雨、列島おそった異常気象 記録ずくめの一年.” 日経新聞, 28 12

2018, www.nikkei.com/article/DGXMZO39533730Y8A221C1CC1000/. Accessed 21 May 2020.

14.高村ゆかり.”台風19号の経済損失は世界最高額…気候変動×レジリエンスとビジネス.”

ニューススイッチ, 3 Mar. 2020, newswitch.jp/p/21347. Accessed 21 May 2020.

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