マイクロファイナンスは貧困削減に効果があるのか? ~2015年時点の最新情報~

マイクロファイナンスは「負け組」をつくるのか?~Compartamos Bancoの事例~ 貧困削減をミッションとしているLiving in Peace (LIP)として、マイクロファイナンスに貧困削減効果があるか否か、は極めて重要なテーマです。 現に「マイクロファイナンスは低所得者層に年率100%以上の高金利でお金を貸出す、途上国の消費者金融のような存在ではないか」という懸念の声も一部あります。確かに、マイクロファイナンスの金利は低くありません。しかし、本当にマイクロファイナンスは低所得者層から高金利で搾取し、不幸をまき散らす存在なのでしょうか。その点を可能な限り統計的に分析した論文を紹介します。 “Win Some Lose Some? Evidence from a Randomized Microcredit Program Placement Experiment by Compartamos Banco(マイクロファイナンスは勝ち組と負け組を作るのか。Compartamos Bancoのランダム化比較試験からわかったこと)” メキシコで最大のマイクロファイナンス機関であるCompartamos Bancoを巻き込んだプロジェクトです。手法をざっくり説明すると ランダムにマイクロファイナンスの潜在的顧客(借りる意志・能力がある人達)といえる女性の事業主・または女性で事業を始めようとしている人を選び(16560人)、初期データを取る(ベースライン調査) 選んだ女性達を2つのグループにわける 【Treatment(介入有)グループ】 こちらのグループにはマイクロファイナンスへのアクセスを与える。具体的にはTreatmentの地域にはCompartamos Bancoから訪問・広告などのマイクロファイナンスローンのプロモーション活動を積極的に行う) 【Control(介入無)グループ】 こちらのグループには比較対象にするため何もしない。 2~3年後に対象家庭のデータを再度取り(フォローアップ調査)、生活の変化をみる という方法でマイクロファイナンスへのアクセスの有無が与える影響を特定しています。 結論としては、マイクロファイナンスへのアクセスは、ビジネスの拡大、家計の管理能力、幸福度、人への信頼度、金銭的意思決定における発言権など主に定性的な(数値化しづらい)面ではポジティブな効果が統計的に有意に存在すると観察されました。 ※「統計的に有意」とは「確率的に偶然とは言えなさそう」と置き換えて考えてください 例えばビジネス(事業)の拡大に関しては Treatmentグループはビジネス(事業)での2週間の収入が121ドル(Controlグループより+27%)、支出が118ドル(Controlグループより+36%)統計的に有意な増加が観察された しかし、利益(収入-支出)の額に関しては統計的に有意な結果は観察できなかった。具体的には、Treatmentグループの方がControlグループよりも利益が0.2ドル少なかったが、これは各々の利益の分布からいっておそらく偶然である つまり「利益は増えていないが扱う額は増加した」結果、事業は拡大した という論理です。 家計の管理能力、幸福度、人への信頼度、金銭的意思決定における発言権などの定性的な面での向上がみられたのは、マイクロファイナンスにより扱う金額が増大した→企業規模が大きくなった→社会的責任感が増した、というフローの結果と考えられます。 一方でビジネスの利益、日用品への出費額、教育・医療への出費額、など主に定量的な影響について統計的に有意な結果は観察されませんでした(=TreatmentとControlで増減に差はあるものの、偶然の可能性を否定できない)。 更に、この調査で注目していた全17指標において、TreatmentグループはControlグループと比較した際に統計的に有意なマイナスの影響は観察されませんでした。 以上の結果から、「マイクロファイナンスは2~3年で収入が増加するなど定量的な効果があるとは必ずしも言えないが、人への信頼が高まるなど定性的な面では効果が確認できた。加えて、少なくともマイクロファイナンスの存在で統計的に有意なマイナスの影響はない」と言えます。この調査では「マイクロファイナンスへのアクセスの有無」がTreatmentとControlの差なので、万が一「マイクロファイナンスへのアクセスがあったせいで不利をこうむった」ことがあれば、「マイクロファイナンスが負け組を作った」と言えたと思います。しかし今回の調査結果では偶然でなさそうなマイナスの影響は殆ど観察されなかった為「負け組は作らなかった」と言えると思います。 グラミン銀行のムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したこともあり、「マイクロファイナンスは、収入も生活レベルも精神衛生も向上させられる魔法のようなシステム」という印象があるかもしれません。しかし現実としてはマイクロファイナンスの登場で突然地域の経済レベルがあがり、金銭的に豊かになるとは限らない、というのがこの論文の主張です。しかしながら重要なことは「少なくともマイクロファイナンスの登場で悪影響を及ぼす可能性は低い」と「定性的(数値化しづらい)ファクターで良い影響を及ぼしたのは偶然ではなさそう」の2つの事実です。マイクロファイナンスは新しい金融システムの為、まだまだその効果について議論の余地がありますが、こうした論文の結果は、マイクロファイナンスを広げる一つの強い客観的根拠になり得ると思います。 LIPとしても、今後もマイクロファイナンスに貧困削減効果があるのか、またその程度、条件などの詳細について、調査を続けたいと思います。 (西田一平)  

H.I.S.担当者に聞きました! 貧困削減への確かな一歩となる、ベトナムスタディーツアーの魅力とは?

マイクロファイナンス機関や顧客(借り手)を訪ねる、「マイクロファイナンス スタディツアー」。貧困削減の現場を自分の目で見ることで最高の学びが得られるとして、毎年多くの方から好評いただいています。 今年は9月のシルバーウィークに実施し、ベトナムのマイクロファイナンス機関「TYM」を視察予定。ここでは、企画者であり2013年度のツアーに同行したH.I.S.の鮫島卓さんにその魅力を語っていただきます。果たしてどんなスペシャルな体験ができるのでしょうか。 ”大人の修学旅行”のノリで楽しむから、定番の観光地も新鮮にうつる ↑ H.I.S.エコ・スタディツアーデスク所長の鮫島卓さん。「ひとり参加が多く、皆さん最初は緊張している様子ですが、あっという間に熱い議論になるほど仲良くなる。それがスタディツアーの醍醐味です」と笑う。   LIP ツアー初日はハノイの市内観光をする予定です。まずは、街の魅力や観光ポイントを教えてください。(※市内観光は5日間プランの方のみです) 鮫島卓さん(以下、敬称略)ハノイの街は人が溢れバイクのクラクションが鳴り響き、喧騒と活気で満ちています。そんななか、他のアジアの国とは違ったフランス統治時代の情緒や文化を感じられるのが魅力です。  観光スポットとして注目いただきたいのが、ホー・チ・ミン廟。ホー・チ・ミンの遺体が安置されている場所で、市街の喧騒とは別世界のピンと張りつめた独特の空気感があり、ベトナムが社会主義の国だということを改めて実感します。   ――観光ではわりと定番の所を訪れると思いますが、ハノイのリピーターでも楽しめますか? 鮫島 間違いなく楽しめます!スタディツアーでは、アイスブレイクも兼ねて、観光するごとに感想を言い合う時間を作りました。「ハノイ大教会のこんなところが素晴らしかった」などをみなで話すことで、ガイドブックを読むのとは違う学びや視点が得られる。「自分だけでは見えないものが、見えてきた」と興奮する方もいたぐらいです。参加者の年齢や経歴がさまざまなのも、多様な意見が生まれて面白い。大人の修学旅行のノリで、通常の観光とは違った刺激を受けられると思います。 ↑ ハノイ市内は、道路を渡るのが一苦労なほどバイクが溢れて。その活気に、この国が急成長している様子が感じられる。   ――マイクロファイナンス機関の視察では、今年もTYMを訪れる予定です。ベトナムの貧困やマイクロファイナンスの現状について説明を受けるなど、現地スタッフと交流しますが、参加者の反応はいかがでしたか? 鮫島 投資をしている参加者の方からは、「自分のお金がどのように使われているのか具体的にイメージできて、よりマイクロファイナンスに親近感がわいた」という意見をいただきました。同時に、「本当に貧困の解決になっているのか?」「もっとも貧しい人の役に立っているのか?」「融資の基準は妥当なのか」など、現地スタッフに鋭い質問を投げる方も多かったです。 マイクロファイナンスの貧困削減効果を中心に話が盛り上がって止まらなくなり、ホテルに戻って夜な夜な参加者同士で議論する…というシーンもありました。参加者はほぼ全員がひとり参加だったのですが、マイクロファイナンスを共通項にあっという間に親交を深めていましたね。本当に熱い熱い夜でした(笑)。   顧客の朝ごはんのメニューからセンターミーティングまで、ありのままを視察 ↑ TYMからお金を借りて、バイクの修理事業などで生計を立てる女性を訪問。事業は成功し、支援から卒業しつつある。   ――そしていよいよツアーのハイライト。顧客(借り手)を訪ねます。TYMは“女性のための女性のマイクロファイナンス機関”というのが大きな特徴で、ツアーで話を聞くのも女性の顧客です。 鮫島 前回のツアーでは、ふたりの女性顧客の家庭を訪問しました。「何時に起きてどんなご飯を食べているのか」など、日常生活のことを具体的に質問できるのがよかった、と参加者の方から感想がありました。 ふたりのうち、ひとりはバイクの修理などの事業を興して成功し、支援を卒業しようとしている女性。もうひとりは、夫が亡くなって小さな子どもを抱えながら養鶏の仕事を始めたばかりで、貧困状況にある女性でした。同じ機関の顧客でも、家庭の状況や事業の成功具合は実に様々で差があることが実感できたようです。そしてそもそも、首都ハノイと顧客が多く住む農村地帯の貧富の差に驚かれる方も多かったですね。   ――30~40人の顧客を集めて、貸付・返済の確認をすると共にビジネスや金融知識のトレーニングを行う「センターミーティング」を視察できるのも、貴重な体験ですよね。 鮫島 スタッフと顧客が顔と顔を突き合わせてお金の貸し借りをするのですが、その様子が特に金融関係の参加者の方には衝撃だったようです。「マイクロファイナンス成功のカギは、やはりface to faceのコミュニケーションにあると思う!」って興奮されていました。顧客と直接触れ合うことで、事業が本当にうまくいっているのか、健康や精神状態に問題はないか等をきちんと把握できることに、気づかされたようです。 また、デジタル化などで、日本を含む先進国の金融には失われつつある「人と人との温もり」みたいなものの大切さを再認識したという方もいました。   ――最終日の夜も、きっと議論で盛り上がったのでしょうね。 鮫島 かなり盛り上がりました。そして最終日の夜には終わらず、実は帰国後も議論は続いています。何回か有志で交流会が開かれ、マイクロファイナンス談義がベトナムツアー中と同じくらい熱く盛り上がりました。同じ興味をもつ方が集まるので、いい仲間作りになるのもスタディツアーの醍醐味かもしれません。旅が終わっても、旅の楽しみは続きます! ↑ ツアー参加者がもっとも感動したひとつが、集金確認のシーン。日本の銀行とは異なるどこか長閑な様子には、先進国が失った何かをも感じさせる。   ※こちらは2013年度のベトナムスタディーツアーの様子を取材したものです。本年度のツアーは、一部内容などに変更がある場合もございます。

~プチ漫画付きで魅力を語ります~ マイクロファイナンスフォーラム2015へようこそ!

―登場人物紹介― <左>ニシダ:調査チームのリーダーで、フォーラムの裏ボス的存在。本業ではシンクタンクに勤務し、データー分析の日々。Fintechにも造詣が深い。 <中>ナガシマ:公認会計士・ConnectAsia株式会社代表取締役社長。マイクロファイナンスの現場を走り回る熱い男。フォーラムにゲストとして参加予定。 <右>キョウ:広報チームの新米。その仕事の速さとバイタリティ、そして声の大きさで早くも一目置かれる存在に。フォーラムは初参加。   マイクロファイナンスフォーラム開催まで、いよいよ1カ月を切りました! 今年のテーマは「Microfinance×Fintech」。大充実の内容にするべく、メンバーは一丸となって準備を進めていますが、「Fintechって何?今回のトピックは難しくない?」という声がちらほら。 そこで、ここでは広報チームの新米キョウが、フォーラムのゲストであるナガシマ氏と調査チーム隊長ニシダと共に、見どころを分かりやすくお伝えします。   Fintechはなぜここまでバズっているか? ―満月の夜、都内の某チャンコ鍋屋にて。 キョウ:私はマイクロファイナスフォーラムに初参加なので、今からワクワクしています!Fintechっていうのも、なんだかイケてる響きですよね。でも実は、意味がいまいちよくつかめていなくって…。教えてください、ニシダさん! ニシダ:Fintechとは、FinanceとTechnologyを合わせた造語というのは知っている? キョウ:はい!というかさっきググりました! でもそれって目新しいことですか? 世の中のシステムが、アナログからデジタル化されるのってごく普通のことですよね。なんで今、新しい言葉まで作って騒がれているのでしょう? ニシダ:ディスラプタートシテ、キンユウギョウカイデキョウイダカラ。 キョウ:!!??今の何語ですか? ニシダ:ごめんごめん、つい専門用語が…。ディスラプターとは、テクノロジーを利用して既存の市場を切り開く企業のこと。 キョウ:なるほど。身近な例だと、配車サービスのUberとか?スマホで簡単にタクシーが呼べるという便利さで、特に欧米ではタクシー業界の脅威になっていますよね。 ニシダ:その通り! Fintechで代表的なものには決済・C2C送金のPaypal、LINE Payなどがあるけれど、それらも金融業界の脅威。つまり金融の仕事を奪ってしまうのではないか、と思われているわけです。 一方で、もちろんテクノロジーによって金融サービスが効率化する面もある。オンラインで24時間365日預金や振り込みができるのは、テクノロジーの恩恵だよね。つまり、テクノロジーの介入は金融にとって脅威でもチャンスでもある。で、今は脅威かチャンスかどっちに出るかをみなで睨んでいる時期であって、Fintechという言葉がバズっているわけ。 キョウ:なるほどー。まさに今が、FinanceがTechnologyを食うか食われるかの勝負時なんですね! (ニシダさん、必要以上に輝いて見える…もしや、Fintechにはカッコ良く見せ効果もあり…!?) 開発途上国におけるFintech ―スペシャルゲスト、ナガシマ氏がスリランカから到着。 ナガシマ:まぁ、食うか食われるかっていうか、仲良くするのが理想だけどね。 ニシダ:その声は、ナガシマさん! キョウ:初めまして!今回のフォーラムでの発表、楽しみにしています。ナガシマさんは、途上国で金融分野のICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)に携わっているんですよね? ナガシマ:そうだよ。今は主にミャンマー、カンボジア、スリランカで活動しています。日本と海外を行ったり来たりで忙しいけれど、特に途上国のことは現場に行かないと分からないことが多いからね。 ニシダ:そ、そう言われると、主にデスクで作業をしている僕は耳が痛いな…。 キョウ:ニシダさんは、ウォッシュレットがないところでは生きていけないですもんね!! ニシダ:それは余計だし声が相変わらず大きいよ!(気を取り直して)ナガシマさんには、ぜひフォーラムでマイクロファイナンスにおけるFintechの実例について話していただきたいと思います。 キョウ:開発途上国でも、Fintechは熱いんですか? ナガシマ:そうだね。先進国と同様に、Fintechによるサービスの効率化や生産性アップが期待されている。一方で、インフラが整っていなくてデータベース化が上手くいかなかったり、IT格差でサービスが公平に普及しないことを危惧する声があったりと、課題も多い。 キョウ:個人的には、どんどんIT化を進めることには疑問を感じます。この間、ベトナムでマイクロファイナンスのセンターミーティングを視察する機会がありました。マイクロファイナンス機関の顧客が集まって手渡しでお金を返すわけですが、情報交換をしたり歌を歌ったり職業訓練をしたりと、地域の憩いの時間のような印象を受けました。IT化が進むと、ああいうものもなくなってしまうのかな…と。 ナガシマ:良い目のつけどころだね!僕も、どこまでIT化すればいいのか、模索しているところではある。アジアとアフリカなど、場所に寄って状況は異なるし、それに、現場レベルではいろいろ大変なこともあって、例えば… ニシダ:ああっ、ナガシマさん、その辺でストップ!詳細はフォーラムにとっておいてください。これ、フォーラムに人を呼ぶための対談ですから。 ナガシマ:すまん、悪かった!でも最初に言った通り、FinanceとTechnology、MicrofinanceとTechnologyがどうすれば上手くかみ合うのか。そして、結果として世界の貧困削減につながるのか。ヒントが得られるような、フォーラムになればいいと思います。 ニシダ&キョウ:今年も、マイクロファイナンスの新地平を開きましょう! THE END

ベトナムスタディツアー(2015.9)レポート

Living in Peace(LIP)では、企画したファンドの投資家の方々やマイクロファイナンスに興味のある方々にマイクロファイナンスの現場を見て感じていただくため、スタディツアーを企画・実施しています。 今回は2015年9月のシルバーウィークに実施したツアーの様子をレポートします。もし「LIPメンバーと行くマイクロファイナンスの現場」に少しでもご興味をもっていただけましたら、是非、次回のツアーへの参加をご検討ください。 【ツアーの概要】 2015/9/19〜2015/9/23 1日目 日本から移動 2日目 ハノイ市内観光 3日目 TYM訪問(本社訪問) 4日目 センターミーティングと顧客宅の訪問(郊外のPhu Bing地区)。夜、日本へ出発 5日目 帰国 【ツアーレポート】 今回のベトナムスタディーツアーは、2015年9月19日(土)〜9月23日(水)のシルバーウィークを利用して、5日間と4日間の2つコースで開催されました。 ツアーの訪問先は、LIPが企画しているファンドの投資先で、ベトナム ハノイにあるマイクロファイナンス機関TYM。 シルバーウィークということもあり、例年よりも参加者が多く、北は北海道、南は福岡と全国各地から総勢25名もの方々にご参加いただいて、とても賑やかなツアーとなりました。 (今回は航空券のキャンセル待ちで、惜しくも参加を断念された方もいらっしゃるほど多くの方々にお申込みをいただき、LIP広報担当としては感謝の気持ちでいっぱいです。ご参加いただけなかった方は、ぜひ次回お待ちしております!) ー1日目ー いざ、ベトナムへ! 2015年9月19日(土)午前7:00 5日間コースの東京組は、成田国際空港に集合し、ベトナム ハノイに向けて出発。 約5時間の空の旅を経て、ハノイのノイバイ国際空港に到着。 お天気は、私たちの到着を祝福するかのような快晴でした! 空港では、現地HISガイドさんがお出迎えしてくれて、そのままホテルへ。 ホテルへ向かう途中、「バイク天国」と呼ばれるベトナムならではの光景を見ることができました。 ちなみに、行き交うバイクのメーカーを見ていると、ホンダが多かったです(いち早くベトナムのバイク市場に参入しただけありますね) 車にゆられて30分もしないうちに、ホテルに到着。 今回のツアーは、ハノイの中心地から少し北に位置している、HERITAGE HOTELに宿泊。 その後、参加者のほとんどはHISのオプショナルツアー「水上人形劇鑑賞とディナー」に参加しました。 LIPメンバーは翌日の勉強会に備えて準備・リハーサルを夜までしていました。 (ホテルの外観、入り口にあるレストランはハノイで人気のお店とのことで賑わっていました)     ー2日目ー ハノイ市内観光 午前8:00 ホテルの1階レストランで朝食。 (メニューはベトナム名物のフォー、味付けはあっさりしていて、お好みでナンプラーなどの香辛料をトッピングできます)   朝食を食べたら、バスに乗って市内観光へ。 午前中は「タンロン遺跡」「文廟」 午後は「旧市街」や「ハノイ大聖堂」を見学しました。   (旧市街はかなり混んでいて、バイクにひかれそうになったりと、やや歩くのはハードでしたが、みなさん市内散策を楽しんでいました)   観光が終わった後、ホテルの近くにあるレストランで夕食。 食事をしながら、翌日のTYM訪問に向けて、マイクロファイナンスについて予習を行ったり、参加者やLIPメンバーが互いにツアーへ参加した目的や想いを共有し合いました。   ー3日目ー TYM訪問 2日目の夜に4日間コース組も現地入りし、3日目はツアー参加者が全員そろって、いよいよマイクロファイナンス機関TYMへ訪問します。 TYM本部はハノイの中心地にあり、ホテルから車で15分~20分ほどの距離。 到着後、TYM本部の隣ビルのエントランスに入ってしまうという、ちょっとしたハプニングもありましたが、なんとか時間通りに間に合いました。 午前中は、TYMの概況やマイクロファイナンスの現状について説明を受け、グループごとに分かれてディスカッションや質疑応答を行いました。 「TYMの今後の経営方針を知りたい」「貧困の定義とは?」「ソーシャルパフォーマンスについてどのように考えているのか」など各々の問題意識から、参加者一人ひとりが積極的にTYMスタッフへ質問を投げかけていた様子がとても印象的でした。   (TYMの概況について説明を受けているところ。みなさん真剣にメモを取っていました) 午後は、TYMで働いているスタッフのインタビューとオフィス見学。 インタビューでは「(TYMの)顧客と接していく中で仕事のやりがいを感じた、価値ある仕事ができている」というスタッフの熱い想いを聞いて、参加者もLIPメンバーも心を動かされるものがあり、スタッフとの交流はとても有意義なものとなりました。 3日目は、朝早くから夕方までみっちり研修!というようなスケジュールだったので、参加者の方々がぐったりしてしまうのではないかと心配していたのですが、その必要はなかったようで、夕食の時間もテーブルの至る所で、マイクロファイナンスや貧困について延々と熱い議論が繰り広げられていました。   ー4日目ー センターミーティングと顧客宅の訪問 4日目は今回のツアーのメインどころ、センターミーティングと顧客宅の訪問! 午前7:30、眠い目をこすりながらギリギリ集合時間に間に合った私とは裏腹に、参加者のみなさんはとても心待ちにしていたようで、朝から張り切ってバスに乗り込んでいました。 センターミーティングが開催される目的地のPhu Bing地区までは、約2時間の道のり。 30分ほど車を走らせ、中心地から郊外に出ると、道路沿いには古い質素な建物が並び、中心地とはまったく異なった風景が目に飛び込んできました。 (行く途中、前日のスコールで道が浸水している場所があり、車のタイヤの上まで水が…!バスの中では、ここぞ!とばかりにカメラを構える参加者やLIPメンバーたちがカメラを構えて)   Phu Bing地区に到着すると、目的地であるセンターミティングの場所までは車で入れないため、30分ほど歩いて向かいます。 道がかなりぬかるんでいて、とても歩きづらく、参加者の中には体調が悪くなってしまう方もいて、この時、”スタディツアーならではのハードさ”を実感しました。 センターミーティングの場所に到着すると、既に30人ほどの顧客たちが待っていて、私たちを歓迎してくれました。 センターミーティングでは、実際に顧客が返済をしている場面や、TYMのスタッフが貯蓄や保険に関する説明をしている場面を垣間見ることができ、私自身、マイクロファイナンスの現場に立ち会えたことに意義深さを感じました。 顧客たちへの質問の中で、TYMを利用し始めたきっかけは”知り合いの紹介”が多いことがわかり、顧客の中にはTYMを利用するために、この地域に引っ越しをしてきたという方もいました。 また、TYMでは顧客を増やすために、定期的に紹介キャンペーンを実施しており、紹介してくれた人には御礼にプレゼントを渡すという取り組みも行っているとのことでした。 ※センターミーティングとは、TYMの顧客たちが週に1回集まって、借りたお金の返済や貯蓄などを行うミーティングを指します (顧客宅で昼食をご馳走になり、揚げ生春巻きが絶品でした!) 昼食後は、TYMを利用して経営を行っている顧客宅を2件訪問。 1件目は事業がなかなかうまくいかず、立て直しが必要な顧客宅、2件目は事業を成功して貧困から抜け出せた顧客宅を訪問しました。 事業を成功させた顧客は、家畜事業(豚や鶏など)からスモールスタートして、現在では修理事業や飲食事業など次々と新たなビジネスに着手しているとのことでした。広くきれいな一軒家に住んでいました。 「貧しいときは子供を学校に行かせることができず、不安な日々を送っていた。でも今は、お金を貯めることができるようになって、昔のような不安はなくなった。」 そんな言葉から、マイクロファイナンスがきっかけで、この顧客は事業を始めるチャンスを得ることができ、顧客自身の努力の結果として生活を改善することができたのだと、再認識しました。 一方で、もちろんマイクロファイナンスを利用しても、事業がうまくいかず、貧困から抜け出せない人たちもたくさんいます。 しかし、結果が伴わなかったとしても、マイクロファイナンスを通して金融商品にアクセスすることで、少なくとも彼らは貧困から抜け出すためのチャンスを得ることはできたのではないか、と思います。 「貧困削減を促進させるために、そのチャンスをいかに成功へ導いていけるか、マイクロファイナンス機関による顧客の事業支援の強化に今後期待したいですね」 顧客宅までのぬかるんだ道を一緒に歩いた参加者の一言が、今でも印象深く心に残っています。   LIPのスタディツアーは、「投資先の顔が見える」がテーマで、「ありのまま」のマイクロファイナンスを見にいくことを大切にしています。 今回のベトナムスタディツアーに参加いただいた方々に「ありのまま」を見ていただいて、少しでも何か得るものがあれば、企画スタッフ一同これ以上嬉しいことはありません。 (広報グループ 龔 軼群)

新年のご挨拶

新年初のご挨拶を差し上げます。昨年は、Living in Peaceを様々な面でご支援くださり、誠に有難うございました。 2015年は、外側だけを見ると静かな一年だったように思います。新規のマイクロファイナンスファンドを企画することもなく(昨年末に企画したものが8月に販売完了しましたが)、対外的なイベントとしては、定期的に実施しているマイクロファイナンス・スタディツアー 、メンバーの専門性を活かした会計講座、フィンテックと途上国支援をテーマにしたマイクロファイナンス・フォーラムを開催したのみとなりました。 新規のファンドの企画をひとつも行わなかったのには様々な理由がありますが、一番の理由は、調査の結果投資を見送らざるを得なかった案件がいくつかあったことです。そのうちの一つは、世界的にも名の知られているマイクロファイナンス機関らが株主となっており有望と言われたマイクロファイナンス機関でしたが、私たちがファンド企画を見送った後に内部の問題が発覚し、今は大変な状況になっているようです。 その意味では、私たちのマイクロファイナンス機関の調査能力がある程度の水準になったことを実感することができる一年でした。既存ファンドの投資先であるマイクロファイナンス機関のモニタリングも毎月高い精度で行っており、結果として、2015年も大過なくファンドからの資金を保全することができました。また、社会的インパクト測定関係のスタディもある程度終え、調査やモニタリングにも役立てています。 一方で、今後も様々なファンドを企画していくためには、自分たちのネットワークをさらに大きなものにしていく必要性を感じました。いままでは、アジアの一部の地域の一部のマイクロファイナンス機関からのみ知られる存在でしたが、2016年は積極的に海外に出ていき、Living in Peaceとしてのネットワークを広げ、より世界中で認知される存在になっていきたいと考えています。 また、2016年においてはマイクロファイナンスに限らず、様々な形態でのインパクト投資に取り組んでいきたいと考えています。具体的なアイデアはまだお伝えできませんが、年内に何らかの新しい報告ができるように努めます。 私たちが日本初となるマイクロファイナンス投資ファンドを企画してからもう6年が経ちます。そのような事業を行う日本唯一の認定NPO法人として、今後とも進化を続けて参りますので、引き続き、ご支援をどうぞ宜しくお願い致します。   慎泰俊 認定NPO法人 Living in Peace 理事長   (近づきすぎたら怒られました。何事も間合いが重要ですね)

~Financial Inclusionを探る~ デジタル主導で新たな形へ

Financial Inclusion(金融包摂)とは、基本的金融サービスへのアクセスへの問題を解消し、これらのサービスを受けられるようにすることを意味する。現在、途上国を中心に世界の20億人以上の成人が基礎的な金融サービスにアクセスできず、Financial Inclusionが達成されているとは言えない。 そこで、ここでは2010年にG20が提言した「革新的なFinancial Inclusion」に注目し、金融サービスのデジタル化が金融包摂の実現にどのような役割を果たすのか。効果や課題を考察する。 1. 異業種参入による「革新的なFinancial Inclusion」へ 現在、途上国を中心に世界の20億人以上の成人が基礎的な金融サービスにアクセスできない。この状況の打開のため、近年の途上国では携帯電話、銀行業務代行サービスの積極活用など、異業種を巻き込んだ金融サービスのアクセス向上が推進されている。G20 はこれを「革新的なFinancial Inclusion(金融包摂)」と名づけ、2009年にG20 Financial Inclusion Experts Groupの発足、さらに2010年のG20 トロント・サミットにて「革新的なFinancial Inclusionのための原則」を定め、グローバル課題としての取組みを本格化している。(参考PDF http://www.iima.or.jp/Docs/newsletter/2010/NLNo_26_j.pdf) 2. デジタル金融包摂の推進の効果と提言 革新的なFinancial Inclusion推進策の具体例としては、「デジタル金融包摂の推進」が挙げられる。これは「従来のサービスから除外されていた、あるいは十分なサービスを提供されなかった層が、デジタルを通じてフォーマルな金融サービスへアクセス・利用すること」を意味する。 ♦モバイルマネーとFinancial Inclusion♦ デジタル金融包摂の推進の一例として、途上国の支払におけるモバイルマネーの影響を挙げる。下記のような無作為化評価・研究が実施されており、①家計の取引コストの削減 ②リスク共有能力、の2つのポジティブな効果が確認されている。 ①に関しては、携帯電話を用いた現金給付プログラムの影響についても無作為化評価の研究(Aker, Boumnijel,McClelland and Tierney 2011)がなされ、実施機関側の実施コストは勿論、受給者側の現金給付におけるコストも削減されたことが示された。さらに、受給者のコスト削減は支出項目の多様化や劣化試算の減少、収入源となる作物(特に女性により栽培される換金作物)の多様化、などにつながることも確認されている。 ②に関しては、ケニアにおける研究(ジャック&スリ、2014)を挙げる。モバイルバンキングのM-PESAユーザと非M-PESAユーザが大きな負の所得ショック(深刻な病気、失業、家畜の死、収穫・事業の失敗など)を受けた際の、家計消費への影響をが調査された。結果、M-PESAユーザは負のショックを吸収できた一方で、非ユーザは平均7%の家計消費を低下させた。これは、友人・家族間で負の所得ショックが発生した際、M-PESAユーザであれば送金サービスを通してリスクを共有(融通)できたことを示唆する。加えて、他の2研究(Bluemenstock、Eagle, and Fafchamps 2012)(Batista and Vicente 2012)では、モバイルマネーへのアクセス向上が送金意思を向上させるという結果も観察されている。 モバイルマネーに加えて、生体(指紋など)認証による本人確認技術の導入も、信用市場における情報の非対称性やモラルハザードなどの問題を軽減させている。 世界銀行のマラウィにおける現地研究(Gine, Goldbuerg and Yang 2012)によると、融資の際の本人確認に指紋認証を採用したところ、貸し手の融資拒否能力が向上し、不履行率が下がる結果が観察できた。これは貸手が、指紋による本人確認を通し、借手が過去に不履行経験があるか否か返済履歴を参照できるようになったためである。また、本人確認精度の向上は、借手の逆選択やモラルハザード問題も解消した。 上記のようなデジタル金融包摂モデルを推進するためには①電子取引のプラットフォーム ②販売代理店(リテールエージェント) ③端末 の3要素が必要とされるため、途上国におけるICTの導入に関しては上記3点の普及・進展度をはかることが重要である。 (西田一平) 参考資料 I:「デジタル金融包摂:顧客、規制機関、監督機関および基準設定期間への影響」(CGAP、2015) II:世界のFinancial Inclusion状況について(世界銀行より)

〜SPMの取り組みで何が変わるか〜

昨年、2014年のマイクロファイナンスフォーラムでは、「収益性とソーシャルインパクトの両立に向けて」というテーマで、マイクロファイナンス機関の継続性(財務的持続性、財務的健全性、サステナビリティなどでも良いと思います。)を保ちつつ、ソーシャル・パフォーマンスを発揮する重要性を議論しました。 顧客のニーズを真に理解しなければ、本当に効果のある金融サービスはいつまで経っても届けられません。ソーシャル・パフォーマンスを評価するツールに、SPM(Social Performance Management)がありますが、SPMの実践によって、実際にどのような効果があるのでしょうか。 そこで今回は、CGAPのレポートの1つを紹介します。このレポートでは、SPMを活用した事例として、ウガンダのVision Fund UgandaとカンボジアのAMKという二つの機関が挙げられています。こうしたマイクロファイナンス機関や金融サービスを提供する団体にとって、ソーシャル・パフォーマンスを高めることは、その顧客、従業員、投資家全ての利害関係者に対してメリットがあると言えそうです。 “Embedding Social Performance Management in Financial Service Delivery” 和訳LIP作成) “試行と成長を何度も繰り返し、金融サービス提供者 (ファイナンシャルサービスプロバイダー、以下、FSPsと表記)は金融包摂(financial inclusion)を進展させ、低所得層の顧客の為の利点を生み出すということを学んできました。FSPsは必ず顧客第一でなくてはならないのです。金融商品は、貧困層の人々が生活水準を上げられるよう企画されるべきであり、サービス提供は信頼性、透明性のある、公平でかつ安全なものでなければありません。ビジネスの各段階における意思決定は顧客を中心に考え、確実に人々の生活の価値を高めるものであるべきなのです。いくつかのFSPsは顧客中心主義というDNAを生まれながらにして持っていると言えます。彼らの持つシステム、行程、また従業員は、顧客との絆、信頼、長期的関係を築く上で大きな役割を果たします。一方、その他のFSPsにとって、顧客中心というのはチャレンジでもあります。特に、低所得層にサービス提供をするとなると、尚更困難です。 多くのFSPsは、顧客の利点と顧客保護のバランスを取り、財政的持続性をはかる実践的なガイダンスを探し求めています。そこで、ソーシャル・パフォーマンスタスクフォース(以下、SPTFと表記)(注1)のUniversal Standards Implementation Guide(注2)では、戦略、ガバナンス、事業、そして従業員の待遇をどのように改善していくかのガイダンスを提供しています。これはSPMの一連の業界基準に基づくもので、SPTF Universal Standards for SPM( The Universal Standards)(注3)と呼ばれています。 (※SPTFについて、Living in Peaceのコラム、ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク (2014/10/13)も合わせてご参照下さい。) この要綱は、SPMを実証化させ、FSPsがいかに責任のある金融事業を実際のサービス提供に定着させていくか、また業界の健全な発展にどう貢献していけるかという課題にスポットを当てています。 ビジネスにおけるSPMへの考慮 SPMは、全ての戦略、及び業務決定において顧客を中心に考えるという管理方式です。役員、経営管理者、他の従業員全員によって遂行されるべき、明確な社会的戦略を考えるところからSPMは始まります。SPMの優れたFSPsは、顧客がいざという時に危機に対応でき、かつ経済機会に投資し資産を築き、日常生活、またライフサイクルにおける金融的ニーズを管理するのに役立つ金融商品を考案できます。 そういったFSPsは、従業員を大切にし、また金融的な目的と社会的な目的のバランスを保つよう努めています。 SPMはファイナンシャル・パフォーマンスを高める可能性を秘めています。顧客のニーズを理解し顧客に価値をもたらすことを重視しているFSPsは、顧客が必要とする商品を提供しており、そしてそれはマーケットシェアを向上させることにも繋がります。顧客は主に評判や、商品が適しているか、また顧客サービスは良いか等に基づいてFSPsを選定するからです。改善された顧客データによって、より良いマーケットセグメンテーション、顧客の絞り込み、商品販売を行うことができます。顧客や従業員を大切にすることは、忠実な顧客や従業員を持つことに繋がり、その結果、顧客の減少や従業員の離職を防ぐことができるのです。最新のMicrofinance Information eXchange(MIX)データによると、従業員の離職率が高いFSPsはポートフォリオの質が低く(債務不履行が多い)、また顧客の定着率(retention rate)も低いことが明らかになっています。 もちろん、SPMを実行するにはコストもかかります。顧客のニーズに合わせたサービス提供は、生産性にマイナスの影響を与え得る業務やシステムにお金を掛けざるを得ないこともあります。同様に、手の届きにくい、取り残された地域へのサービス提供は、効率性を悪化させるかもしれません。しかし、短期間でこのように改善が見られるのだから、長期間で考えれば、市場における競争力を高めることに繋がり、またより多くの忠実な顧客層の獲得が期待されると考えられます。 例えば、顧客保護という観点でこのシステムを取り入れることは、賢いリスクマネジメント戦略となります。こうした戦略は正当に費用をかけることができ、新しいビジネスを生み出す可能性があります。2013年の研究によると、透明性のある価格設定、クレーム対応、スタッフの倫理的行い、顧客のプライバシーにおいて正しく従事することは、より高い収益率をあげることに繋がるということが分かっています。 FSPへの資金提供者、投資家は、顧客のエピソードや写真以上のものを求めるようになってきています。真の社会的効果をもたらす為、彼らはより一層説明責任をきちんと果たしてもらいたいと考えており、きちんとした社会的データを出すことができる機関を大事にします。更に、多くの規制担当者や政策立案者が金融包摂に関心を持つようになってきている中、顧客保護、社会的報告、場合によっては実際の社会的成果において求められる水準は上がっています。既に積極的な取り組みを行っているFSPsは、このような規制をなんなくクリアしていることでしょう。 基準から実践へ 改良されたSPMによって多くの機関は恩恵を受けることができるかもしれませんが、全ての機関が同じ方法で実行に移していくことは不可能です。そこで、サービス提供者やSPTFメンバーを含めた実践者の幅広い豊かな知識により、様々な方法が導かれています。あるところでは、特定の組織的チャレンジ、例えば従業員の離職率や、顧客の不満足度、焦点を当てた顧客にサービスが行き届かない、といったことに取り組み対処する為にSPMを使用しています(例1)。またあるところでは、社会的目標を再評価し、強化することから始めます。改善して行く為にどのSPMから実践していくか優先順位を決める前に、CERISE Social Performance Indicator(社会性評価指数)(注4)のようなツールを使って現段階でのSPMをどれだけ実践できているか見極めているところもあります。経験に基づいて言えることは、行動計画を考えることから始め、徐々に実行へ移していくという方法が最良だということです。段階的に実行に移して行くと、従業員のサポートを得つつ、変化に対する顧客の反応を分析し、優先度の変更にもすぐに対応できます。 (例1)ここでウガンダのVisionFund (以下、VisionFund, Uganda、VFUと表記)における事例を紹介します。 VFUはUniversal StandardsのSPM実践において成功を収めています: VFUは顧客が直面する障害を取り除くよう、顧客のニーズ、何を望んでいるか理解を深める為にSPMを使用しています。 顧客の60%を女性にすると目指す一方、数年間その割合は30%と目標をかなり下回っていました。VFUは、二つの決定事項が原因であったと気付きます。一つは個人ローンよりも、グループローンに力を注いでいたこと、もう一つは土地の所有権を担保とするよう要求していたことでした。 その二つの政策を取ったことが女性顧客獲得の妨げとなっていたのです。男性たちが自分の妻たちをグループレンディングに参加させようとせず、またウガンダの多くの女性が土地の所有権を持っていませんでした。この問題に気付き、VFUは個人ローンとグループローンのバランスを戻して、担保も代替のものを受け付けるようにしました。女性のニーズに合った商品へと調整して18ヶ月後、VFUの女性顧客へのアウトリーチは42%まで上昇しました。 (本文にあるUniversal Standardsの6つの要素に関する訳は、ここでは省略させて頂きます。前述、Living in Peaceのコラム、ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク (2014/10/13)の一部をご参照下さい。) 機関全体でSPMに取り組む SPMを“特別なプロジェクト”とするよりも、あらゆる多くの機関にSPMを浸透させることが不可欠です。各機関のSPM遂行計画は、それぞれの戦略やビジネス計画に見合ったものであるべきで、役員たちは社会的成果をモニターし、従業員はソーシャル・パフォーマンスのタスクに責任を持って取り組み、CEOは社会的目標を達成することに力を注がなくてはなりません。 カンボジアの大手マイクロファイナンス機関、AMK(注5)には、アウトリーチ、顧客保護にインセンティブを与えるスキームをもったHRシステム、分析システムの開発や社会調査に重点的に取り組む専用研究部署、顧客保護や顧客サービスの財務的、及び社会的側面を扱う監査部があります。AMKには、戦略やオペレーションがソーシャル・パフォーマンスのモニタリングや研究データに対応しているか確認する為の経営委員会も行われています。 こうした機関全体の取り組みは、新たな業務を長く定着させることができます。顧客を第一に考えた、責任ある金融サービスの提供を可能にする為に、Universal Standards、及び添付ガイドはSPMの理解を深める上で大きな手助けとなるでしょう。 マイクロファイナンスがミッションから逸脱してしまうことは決してあってはなりませんが、ガイドラインができたからと言って、誰もが簡単にそれに沿って進める訳ではないでしょう。しかし、マイクロファイナンスはビジネスとしてだけでなく、どれだけ金融サービスを必要とする人々に届けられるか、それをどれだけ持続させていくかという本質を失わないことが重要であり、その本質を見失わない為の道しるべとして、このSPMの活用が更に浸透し、顧客のことを第一に考える環境が整うことを願っています。その積み重ねが結果的に金融包摂に大きな効果をもたらすはずです。今後もSPMの可能性について、また私たちが企画するファンドのインパクトについて説明責任を果たせるよう、調査を続けて行きたいと思います。 (米山倫代) 【参考資料】 https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/20261/909500BRI0Box30anagement0May0201401.pdf?sequence=1 【注釈】 (1) http://www.sptf.info/ (2) http://sptf.info/resources/resource-center (3) http://sptf.info/images/usspm englishmanual 2014 1.pdf (4) http://spi4wiki.pbworks.com/w/page/74245904/SPI4 Home (5) http://www.amkcambodia.com/

LIP勉強会レポート-CGAPが提唱するマイクロファイナンスの基本方針

(UN Photo/ Shareef Sarhan) 【LIP勉強会レポート-CGAPが提唱するマイクロファイナンスの基本方針】 LIPでは毎週土曜日にミーティングを行っており、マイクロファイナンスをテーマに勉強会をすることがあります。12/6(土)にはバングラデシュのBRAC大学の研修に参加したメンバーが、そこで学んだマイクロファイナンスの基本方針を紹介してくれました。この方針は貧困層支援協議グループ(CGAP)及び31の援助機関により作り上げられ、2004年のG8サミットでも取り上げられたものです。私達の勉強会の一部として、その基本方針を以下に紹介致します。 ************************************************************** 【マイクロファイナンスの基本方針】 貧困層が求める金融サービスはローンだけではない 世の中の全ての人々同様、貧しい人々も便利で、柔軟で、リーズナブルな、幅広い金融サービスを必要としています。置かれている環境によって、彼らはローンだけではなく、貯金、送金、保険なども必要とします。 マイクロファイナンスは貧困対策の強力なツールとなる サステイナブルな金融サービスへのアクセスは、貧しい人々に所得増加や資産の貯蓄、外部からのショックに対する脆弱性軽減といった恩恵を与えます。マイクロファイナンスは将来に備えた計画設計、栄養への投資、生活環境改善、子供の健康や教育の向上などを通して、貧しい家庭に日々の貧窮から脱却する「きっかけ」となり得ます。 マイクロファイナンスとは、貧しい人々のための金融システム構築である 途上国では、今でも貧困下に暮らす人が多数を占めています。そのような人々の多くは、基本的な金融サービスにアクセスすることすらできません。多くの国では、マイクロファイナンスはドナーや政府、社会的責任のある投資家が関心を寄せる、やや特殊であまり主流ではない金融機関という見方がまだ根強くあります。しかしマイクロファイナンスが、そのポテンシャルを最大限に活かして貧困層にサービスを普及させるために、金融セクターの中心的役割となる必要があります。 マイクロファイナンス機関の財政的健全性の必要性 貧困層の殆どに金融サービスが行き届いていない理由として、貧困層と金融サービスを繋ぐ、財政的に強固な金融仲介業者が足りていないことがあります。財政的にサステイナブルな金融機関の設立は、設立自体がゴールではありません。多くの人々にサービスを届けたり、援助資金から想定される効果を遥かに超えたインパクトを与えたりするための唯一の手段です。ここでのサステイナビリティとは、マイクロファイナンス提供側が全てのコストをカバーし得る能力を指しており、それを達成してこそ継続的な運営や、現在行っている貧しい人々への金融サービス提供が可能になります。財政的サステイナビリティの実現には、取引コストの削減、顧客ニーズに合ったより良い商品・サービスの提供、金融アクセスのない貧困層にリーチする新たな方法の探求が求められます。 マイクロファイナンスは長期に存続する地域金融システムの構築に繋がる 貧困層への金融システム構築—それは貧しい人々に、永続的な金融サービスを提供できる、健全な国内金融機関を作り上げることです。そのような機関には国内市場における貯蓄の活性化、ローンサービスの拡充など、幅広いサービス提供が可能であることが望まれます。そして、地域金融機関や民間の資本市場が成熟すれば、これまでの援助頼みの体質から徐々に脱却できるでしょう。 マイクロクレジットは常に“最善”ではない 全ての人にとって、全ての状況において、マイクロクレジットが適切な手段とは限りません。例えば返済手段がないほど貧しい人にとっては、食糧支援などの方が有効という場合もあります。寄付金、インフラ改善、雇用創出や職業訓練などの他の金融以外のサービスの方が、貧困削減に適している可能性もあります。しかしこのような金融以外の貧困削減手法は、可能な限り財産貯蓄と併用することで、より効力を発揮すると考えられます。 上限金利は貧困層の金融サービス利用に対する障害物となりうる 金融機関にとって、少数の高額ローンよりも多数の少額ローンを提供する方が大幅なコストがかかります。マイクロファイナンス機関は、平均的水準よりもある程度高い貸出金利を請求しなければ、コストをカバーすることができず、企業成長どころか存続も危うくなってしまいます。政府が貸出金利の上限を制限する場合、金融機関のコストに見合わない程の低いレベルに金利を抑えてしまいます。一方で、マイクロファイナンス機関は非効率な運営から生じるコストを、金利や別費用として顧客に転嫁するべきではなく、運営の効率化に重点を置くべきです。 政府は実現の後押し役であり、金融サービスの直接の提供者ではない 政府は貧困層の貯蓄を守り、金融サービス発展のための政策を整える、という重要な役割を担っています。マイクロファイナンスの発展に政府が貢献できる重要なこととして、経済安定化、上限金利を設けないこと、高い延滞利息付きローンに伴う金融市場の歪みを回避することがあります。他にも起業家のためのビジネス環境改善や汚職の取り締まり、市場へのアクセス改善といったことも、貧しい人々への金融サービス提供を後押しするでしょう。特別なケースとして、健全で独立したマイクロファイナンス機関が資金不足に陥っている場合には、政府からの財政支援も効果的かもしれません。 ドナーからの補助金は、民間資金と競合するのではなく、補完し合うべき ドナーは適切な補助金、ローンや株式を用いて、金融業界の制度能力向上や、金融サービス支援のためのインフラ(格付会社、信用調査機関、会計機関など)の発展、試験的なサービスや商品へのサポートに寄与すべきです。また、長期にわたる寄付金は、サービスが行き届かない人々にリーチするために必要な場合もあります。それを効果的に行うには、ドナーからの補助金は、貧困層のための金融サービスを地方金融マーケットの枠組みに組み込むために活用されなくてはいけません。具体的には、専門家を採用してプロジェクトの設計と遂行に活かすこと、金融機関に対して継続的に支援を行う条件を提示すること、最初から支援終了時を見据えておくことが重要です。 組織的、人的キャパシティの不足が大きな障害に マイクロファイナンスは、銀行サービスと、社会的目標及び(金融機関から始まり、規制機関、監督機関、情報システムを通じ、政府系開発団体や援助機関まで様々なレベルにおいて生じる)十分なキャパシティのニーズが組み合わされた特別な仕組みです。マイクロファイナンスセクターへの官民双方の投資は、このキャパシティビルディングに注力する必要があります。 金融及び社会面双方の透明性確保が重要 貧しい人々にサービスを提供する金融機関の、財務及び社会的パフォーマンスの情報は、正確であり、且つ誇張や歪曲されておらず、比較可能なものであることが非常に重要です。監督機関、規制機関、ドナーや投資家だけでなく、借り手である貧困層自身が適切にリスク・リターンを評価できるよう、それらを兼ね備えた情報を必要としています。 ******************************************************************** 世の中には、未だに金融サービスを受けられていない人は多く存在します。世界の成人人口の50%(約25億人)が正規な銀行の口座を保有していません。「世界金融開発報告書2014年版:金融サービスへのアクセス」では、金融サービスへのアクセス向上において、政府や市場の責任が改めて挙げられています。全ての人々に、サステイナブルな金融サービスを提供するためには、各ステークホルダーが自身の役割を認知し、責任を果たす必要があります。 今回の勉強会は、マイクロファイナンスの原点に立ち返って、私たちのやるべきことを冷静に見つめ直す貴重な機会となりました。来年もLiving in Peaceマイクロファイナンスプロジェクトでは、貧困削減に向けて真摯に活動して参ります。 それでは皆様よい年末年始をお過ごしください。 Living in Peaceマイクロファイナンスプロジェクト 【参照】 CGAP. (2004) “KEY PRINCIPLES OF MICROFINANCE”, https://www.cgap.org/sites/default/files/CGAP-Consensus-Guidelines-Key-Principles-of-Microfinance-Jan-2004.pdf CGAP. (2006) “Access for All: Building Inclusive Financial Systems”, https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/6973/350310REV0Access0for0All01OFFICIAL0USE1.pdf?sequence=1 IBRD/The World Bank. (2014) “2014 Global Financial Development Report: Financial Inclusion”, World Bank Publications, Washington DC.

ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク

Source: http://www.cgap.org/blog/six-dos-now-responsible-investors Photo Credit: Gayanath Wimaladasa   ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク  ―「11の指標」と「国際基準」―   1. ソーシャル・パフォーマンス評価の重要性 マイクロファイナンスのサービスを行うマイクロファイナンス機関(以下、MFIと表記)は、2012年末時点で世界に約3,700存在し、その顧客数は2億人を超えると報告されており、マイクロファイナンスの市場規模は拡大を続けています(注1)。このように多くのMFIが存在する中で、果たしてどういったMFIが良いMFI、悪いMFIといえるのでしょうか。MFIを評価する基準にはどんなものがあるでしょうか。 投資家が株式や社債に投資するとき、通常は投資する企業の財務業績を元に投資先の良し悪しを判断して、投資の意思決定をします。MFIについても、財務業績を評価することは事業の継続性・将来性等の観点からもちろん重要なのですが、財務指標の良好なMFIが貧困削減に貢献しているかというと必ずしもそうとはいえません。2010年にはインド最大のMFIであるSKSマイクロファイナンスがIPOで3.54億ドルという多額の調達に成功しましたが、その2ヶ月後にアンドラ・プラデシュ州政府から農民数十人の自殺がSKSの強引な取り立てを原因とするものだという主張がなされたこともあり(注2)、MFIの商業化が大きく問題視されるようになりました。本来の目的である貧困層・低所得者層の支援という視点が希薄化して、顧客の財務状況を考慮しない融資の返済プラン等を作成し、結果として返済が滞ると過剰な取り立てを行うようなMFIも中には存在することが明らかになってきたのです(注3)。 こうしたMFIのミッション・ドリフト(過度の商業化により貧困削減というマイクロファイナンス本来のミッションから逸脱していること)が表面化する事態を受けて、マイクロファイナンス関係者の中では、ファイナンシャル・パフォーマンスに加えて、ソーシャル・パフォーマンス(社会的業績)を評価・測定することの重要性が広く認識されています(注4)。MFI専門の格付機関のみならず、大手格付機関までもが、それぞれ独自のフレームワークを使って、MFIのソーシャル・パフォーマンスを評価しています(注5)。 今回はソーシャル・パフォーマンスを評価するフレームワークのうち、代表的な2つのツールを紹介します。まず1つは、MIXとソーシャル・パフォーマンスタスクフォース(the Social Performance Task Force/以下、SPTFと表記)によって開発された11のソーシャル・パフォーマンス指標です(注6)。もう1つは、同じくSPTFによるソーシャル・パフォーマンス管理(以下、SPMと表記)の国際基準(the Universal Standards for Social Performance Management/以下、USSPMと表記)です(注7)。これらのツールを具体的にみることで、ソーシャル・パフォーマンスを評価するとは一体どういうことなのか、理解ができると考えます。 2. 11のソーシャル・パフォーマンス指標 2011年MIXとSPTFは、MFIのソーシャル・パフォーマンスを測定するための11の指標を開発しました。 各指標の説明は以下の通りです。 1.ミッションと社会的目標 (MFIが定めている社会的ミッション、ターゲット、達成目標) 2.ガバナンス (SPMの研修を受けている役員数や、ソーシャル・パフォーマンスをモニタリングする正式な委員会の有無) 3.商品・サービスの範囲 (金融商品から非金融商品まで、MFIが提供している商品・サービスの範囲) 4.顧客に対する社会的責任 (MFIが適用しているSmart Campaignの顧客保護原則(注8)の数) 5.顧客に対するサービスにかかるコストの透明性 (MFIによる適用金利の説明方法) 6.人的資源と従業員のインセンティブ (MFIの従業員に関するポリシー) 7.環境に対する社会的責任 (貸付先企業が環境に与えている影響度を評価する仕組みの有無) 8.貧困層へのアウトリーチ(注9) (貸付前の顧客の貧困水準と、貸付後の水準に変化があったか) 9.貸出方法による顧客へのアウトリーチ (顧客に合わせた貸付方法で、より多くの顧客にサービスを提供できたか) 10. 貸付した企業と雇用機会創出 (貸付先企業の数、及び貸付先企業によって生み出された雇用) 11. 顧客定着率 (MFIの顧客定着率) 11の指標を見るとMFIの経営実績・財務的健全性には直接的に繋がりにくい印象を受けますが、MFIがSPMの部署を置いているか、顧客保護をどれだけ順守しているか等、MFIが本来のミッションに基づいた事業を行っているかを見る上で有効な指標が並んでいます。MIXは世界中の各MFI別に上記の指標のデータを公開しており、投資家を始めとする業界関係者がソーシャル・パフォーマンスのデータを収集・比較分析するためのプラットフォームとなっています。これらの指標が充実するほど、貧困削減に貢献しているMFIを容易に特定できるようになります。 3. SPTFの「国際基準」 最近ではソーシャル・パフォーマンス評価の手法を統一しようという動きがマイクロファイナンス関係者の中で起こっていますが、その大きな動きの1つとして、2012年6月SPTFはSPMの国際基準(the Universal Standards for Social Performance Management)を発表しました。 (出典:the Social Performance Task Force) USSPMはMFIが実践すべきことを6つの領域に列挙します。 社会的目標を定義し、モニタリングすること 経営陣や従業員が社会的目標の達成についてコミットメントをするこ 責任ある顧客管理をすること 商品、サービス、提供方法やチャネルを、顧客の必要性と選好に合わせること 責任ある従業員管理をすること ファイナンシャル・パフォーマンスとソーシャル・パフォーマンスを両立させること USSPMの特徴はその作成経緯です。世界中のMFI、投資家、MFI評価機関、その他利害関係者が長期に渡って統一的な基準を作るために議論を続け、互いのニーズを明確にした結果として、USSPMは作成されました。そのためUSSPMには、各関係者が実践したベストプラクティスが体系的にまとめられています。上記6つの基準だけではやや抽象的な説明なので、MFIがミッションを達成するために具体的に何をすべきだと書かれているのか、もう一歩掘り下げて見てみましょう。 例えば、第1の基準「社会的目標を定義し、モニタリングすること」は、大きく1Aと1Bに分解されています。 1A: MFIが社会的目標を達成するための戦略をもっていること 1B: MFIが社会的目標の達成度をモニタリングするために、正確な顧客別データを管理・公開していること そのうち1Aの基準を達成するためのベストプラクティスは6点挙げられています。 ①ターゲットとする顧客の金融へのアクセスを増加させ、利益をもたらすというミッションがMFIの戦略に言及されていること ②MFIの戦略がターゲットとする顧客の具体的な特徴を定義していること ③MFIの戦略が社会的目標を定義していること ④MFIが顧客の貧困水準を測定できるターゲットを定義していること ⑤MFIの戦略が社会的目標の達成に向けた進捗を測る指標を定義していること ⑥MFIの戦略が商品、サービス、提供方法やチャネルによってどのように社会的目標を達成するかを明示していること。 以上の通り、1つ1つの基準を細かく分解して、詳細な点まで言及されていることが分かります。USSPMの出発点は上記6つの領域ですが、関連するベストプラクティスの数は80以上にものぼります。これらの詳細について興味のある方は実践ガイドを参照下さい(注10)。 4. 今後の期待 今回紹介した指標・基準を見ることで、ソーシャル・パフォーマンスを評価するということが具体的にどういうことか、イメージを掴めたのではないでしょうか。これらのフレームワークが普及することで、ソーシャル・パフォーマンス評価に係るMFIのデータが整備され、各関係者がMFIのソーシャル・パフォーマンスに関して良質な情報を得られるようになり、マイクロファイナンス・セクター全体の取引コスト(情報取得コスト・審査コスト)の削減といった効果が期待されます。これらのフレームワークは、マイクロファイナンス業界にとっての重要なインフラとなりつつあるのです(注11)。 ただ忘れてならないことは、MFIの外部機関がこうした枠組みや基準を決めることがゴールではなく、より重要なことはMFIがそれらの基準を実践し、具体的に本来の貧困削減というミッションの達成に向けて行動を起こすことです。SPTFも基準を実践させることの重要性を認識しており、USSPMを発表した1年後の2013年6月、基準を実行させるために必要な10の教訓をまとめたうえで、情報共有しています(注12)。MFIの中でもSPMの体制を組織として位置づけているケースはまだ一部に限られており、MFIがこれらの基準を実践していくには時間がかかると思われます。 このようにソーシャル・パフォーマンス評価は本格始動したばかりですが、MFIを貧困削減という本来のミッションに立ち返らせるうえで重要な取組みです。MFIのソーシャル・パフォーマンス評価のあり方を考えることは、マイクロファイナンスを通じてどのように貧困削減や金融へのアクセス拡大を達成できるのか考えることに繋がります。Living in Peaceは、最新のソーシャル・パフォーマンス評価手法の調査を継続し、そのトレンドを発信していきたいと考えています。また貧困削減や貧困層への金融アクセス拡大というミッションに基づいたファンドを今後も企画していくために、ソーシャル・パフォーマンス評価を投資先MFIに対して実践し、机上の空論に終わらない、実務に則した評価手法を洗練させていきます。今回は代表的なソーシャル・パフォーマンス評価手法の簡単な紹介でしたが、フレームワークをMFIに実際に適用する上での課題等、より実務的な観点からのレポートを今後発信していければと思います。 LIPマイクロファイナンスフォーラム2014 ~収益性とソーシャルインパクトの両立に向けて~ はこちら   【参考文献】 (Edited) Joanna Ledgerwood. 2013. The New Microfinance Handbook–An Institutional […]

アイ・シー・ネット株式会社河原氏・粟野氏のマイクロファイナンス講義

LIPは日本でもトップクラスのマイクロファイナンス機関(以下、MFI)調査団体を目指すべく、MFIの調査手法の研究を続けています。 とはいえ、国内においてフルタイムで働いていることから、開発途上国に赴き現地の情報を収集することには限界があります。 8月28日(日)に、応援メッセージもいただいているICNETの粟野氏(マイクロファイナンス読本などの業績があります)及びご上司の河原氏をお招きし、マイクロファイナンス(以下、MF)業界との関わりやの調査手法など経験談を教えていただきました。両氏にはエキスパートとして、お忙しいところ我々の足りない部分を補ってくださったことに感謝申し上げます。 粟野氏は1995年からMFの研究調査に携わり、1999年からジンバブエでMFIの調査研究やコンサルティング業務を行ってきました。MFIを支援する政府機関で、MFIへの経営・融資・財務管理能力の指導や、MFIへの低利貸付制度の改善などに従事されました。 当時のジンバブエのMF業界は、成長発展の余地があるにも関わらず、次のような課題を抱えていました。政府機関は不良債権の回収、MFIは規模の拡大・組織力の向上・財務的な自立・高利貸しとの棲み分け、商業銀行のMF業界への参入は一行しかない、等です。インフレ率は既に上昇傾向であったものの、まだMF機関が収益をあげられる状況だったそうです。また、融資対象のMFIを選定するにあたってどのような基準でMFIを評価すべきか、という問題に直面されました。 CGAP(世界銀行の貧困削減に関する調査機関)のMFI評価のためのガイドライン(こちら)やPlanet Rating(MFIの格付機関)の格付けレポートを研究され、Governance(企業統治), Strategy(戦略), Management(経営管理), MIS(経営情報システム), Outreach(貧困削減の達成度), Profitability(収益性)など10項目からなるMFIの評価基準を策定されました。これにより、MFIの評価が数値として表され、複数のMFIの客観的な比較対象が容易になります。 Planet RatingではGIRAFEという評価体系に従い、企業統治、情報技術、リスク管理、営業実績、資金調達、経営効率性の6つの評価基準からMFIを格付けしています。(出典はこちら) 当時は今よりもインターネットが普及しておらず、マイクロファイナンス情報に対するアクセスもずっと悪かったはずです。それでもMFIの評価基準を作ってしまったという事実に、ロールモデルとして勇気をもらわないはずがありません。 河原氏も元銀行員で、南太平洋の金融機関で働かれた経験があり、当時のご経験を聞くことができました。これだけでも十分勉強になったのですが、興味深いのは発展途上国ゆえの事例が紹介されたことです。 ローンの償却に関すポリシーがあるのに償却された実績がない、MIS(経営情報システム、ローン情報を記録するシステムのこと)を評価しようとしたら記録も保存していなかったこと、思わず笑ってしまうような事例が次から次へと現れました。評価基準が上手く機能する例と、そうでない例を同時に学べる機会は貴重でした。 MF機関での不正とそれに対する取り組みの例や、その背景についても全員で議論しました。職員の給与の低さ、地方の支店では本店の管理が行き届きにくいから、内部及び外部の規制や監査がしっかりしていないから、など、そのインセンティブ構造も話し合いました。日本国内で財務諸表や書類などを見ているだけでは、まずわからないことだったため、有意義な議論となりました。 この勉強会はあっという間の2時間だったのですが、定例会議が始まるまでフリーディスカッションをしました。11月28日(土)に予定されているマイクロファイナンスフォーラム2010の報告について相談させていただきました。その中で興味深かったのが、『資金調達構造から見るMFIの規模及び寡占度』です。 LIP代表の慎が私の提言(こちら)で主張しているように、マイクロファイナンスファンドを組成するコスト(発展途上国に赴き、滞在し、現地調査をする費用)を考えると、どうしてもコストパフォーマンスの見合う規模の大きな投資に偏りやすくなります。 従って、ある国の大手MFIの海外資金調達は順調であり、そのシェアは圧倒的であると考えられます。一方で、中小のMFIは海外からの資金調達がより難しく、規模を拡大することが困難になるでしょう。結果的に、より営利性を追求できる大手MFIによって市場が寡占される一方で、貧困削減などソーシャルミッションを追求する中小のMFIといった棲み分け傾向があるのかもしれません。LIPが中小のMFIsを支援する根拠を客観的に示せないか、今後とも検討していきます。 粟野氏、河原氏の専門知識やご経験によって、LIPの能力が大きく強化され、メンバー一同刺激を頂いたことに感謝しております。 両氏はじめとする多くの方々のご支援のおかげで、今のLIPがあります。末筆乍ら、厚く御礼申し上げます。