女性の金融アクセスを広げた”ジェンダーパフォーマンス指標”

Source: http://www.cgap.org/blog/prove-it-measuring-gender-performance-microfinance Photo Credit: Supriya Biswas   女性の金融アクセスを広げた”ジェンダーパフォーマンス指標” 安倍首相が2013年9月26日の国連総会演説で語った「ウーマノミクス」。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にはこうある。(注1) “日本の女性という最も活用されていない資源をさらに開発するだけで、日本の国内総生産(GDP)は最大で15%も増加し得る”。 これは1999年、ゴールドマン・サックスのキャシー松井氏とその同僚たちにより発表された「ウーマノミクス」というレポートで最初に主張された 。(注2) 日本社会が抱える、人口減少、少子高齢化、財政赤字などといった問題を解決する施策として、まず「女性」という日本の隠れた資産を最大限に活用することが必要だと提唱した 。(注3) ウォール・ストリート・ジャーナルでアフリカの事例も取上げられているように、これは日本だけが該当することではない。女性の労働参加率の向上により世界中でどれだけ生活水準を良くできる可能性を秘めているか、もっと発信していくべきではないか。今回は、マイクロファイナンスという観点から、発展途上国において、女性の金融へのアクセス及び女性の労働参加を促進させる為の鍵となるであろう“ジェンダーパフォーマンス”について、Women’s World BankingのCEOであるMary Ellen Iskenderian氏によるCGAPのブログ記事(注4)を通して紹介する。 “Prove it: Measuring Gender Performance in Microfinance”(*和訳・注釈はLIP作成) “女性の起業家たちの金融サービスへのアクセスは、大きな障害に直面している。この弊害は、女性の仕事や家庭、コミュニティとの関わりにおいて負の影響を与えており、それゆえマイクロファイナンス業界は、女性たちがこれらの障害を乗り越える手助けをするというミッションのもと活動してきた。実際、MIX(Microfinance Information eXchange)(注5) のデータ分析により、多くのマイクロファイナンス機関が女性の顧客も対象としている(女性比率74%)と主張し、半数以上のマイクロファイナンス機関が女性のエンパワーメント(注6)、もしくはジェンダーの平等性を目標に掲げていることが分かった。しかし、ジェンダーと金融について更に意義のある議論を進めていくには、ここで主張する金融サービスへの取り組みやエンパワーメントについてもっと力を入れて取り組んでいかなくてはならない。 2011年、Women’s World Banking(以下、WWBと表記)はGender Performance Initiative(以下、GPIと表記)という指標を発表した。GPIは、女性の金融包摂(financial inclusion) (注7)の成果を示す為、マイクロファイナンス機関がどれだけ効果的に女性に金融サービスを提供しているかを評価するものである。そして最終的には女性が顧客や働き手となり、更に社会、及び経済変化を起こすようなビジネス・ケース例を構築していく為の指標だ。 これらを実現する為に、いわゆる“ジェンダーパフォーマンス”をはかる指標を開発。まず初めに、WWBの広範囲かつ定性的研究(extensive qualitative research)(注8)を踏まえた女性の借り手の評価、また彼女たちの生活水準に基づき、優先地域を明確化した。これらの優先地域は、女性たち特有の生活サイクルにおける需要や掲げている目標、またサービスの質や借り手を守ることに焦点を当てるといった、金融商品デザインやその多様性も考慮している。また我々はマイクロファイナンス機関のスタッフやマネジメントにも着目した。女性の借り手たちにとって最もふさわしいサービスを提供する為には、マイクロファイナンス機関そのものが女性役職員にとって最高の働き場所であるべきだからである。そして最後に、マイクロファイナンス機関のファイナンシャルパフォーマンス、女性役職員及びその家族に、彼女たちがどのように貢献し成果をもたらすのか理解を深めようと試みた。 我々のネットワークメンバーである3つの機関、ウガンダのFinance Trust、コロンビアのFundación delamujer、インドのUjjivan Financial Servicesと共に、この指標のフレームワークを試験的に実施。過去2年間、それぞれの機関における借り手のデータベースで広範囲な分析がなされた。また指標を集め、統計し、レポート化する実用性を判断する為、マイクロファイナンス機関のコアメンバーと調査面談を何度か行なった。 Finance Trustでは有効なデータを得られただけでなく、男性、女性の借り手それぞれの違いを示唆する情報を入手することができた。例えば、Finance Trustの女性の借り手のポートフォリオは、大きな商業ローン以外全てのローンサイズで、男性よりリスクが低いことが示された。一般的に女性は男性に比べて信用できる返済者と見なされるが、この仮説を検証するのは批判が多い。だが、各商品・各性別のポートフォリオ分析によって、Finance Trustはリスクを誘発しうる要因を理解することができたのだ。 Fundación delamujerは女性を対象に長年に渡り献身している機関であるが、(商務、リスク及びマーケティング部を含む)機関全般にわたってソーシャルパフォーマンス指標の重要さを再認識することとなった。例えば、農業ローンサービスの取り組みにおいて男性には31%、一方女性にはわずか12%の貸出しであることがGPIの試験的実施で判明した。後に原因を追究したところ、金融サービスのコンテンツが女性たちの需要に合っていなかったことが分かった。そこでFundación delamujerは開発を続け、多数国間投資基金(MIF)、ドイツ政府機関(BMZ)(注9)、Hivos Aid、及びIrish Aidの協力のもと、近年新たに、女性の借り手に焦点を当てた農村地域への金融サービスを全国に展開した。分析により、男女の借り手の定着率の違い(男性62%、女性68%)も明らかになった。これは女性の借り手は男性に比べ、より忠実であるという仮説を支持する根拠である。これらのデータにより、Fundación delamujerのようなマイクロファイナンス機関が、借り手の金融サービスに対する満足度を見極められるようになる。それだけでなく、女性を対象にした金融サービスのビジネス・ケースにも貢献できるのだ。 GPIの試験的実施により、借り手に最善の結果をもたらす為の社会的指標を追究し、分析する可能性を見出すこともできた。例えば、インドのUjjivanでは借り手の子どもたちの年齢、及び教育環境についてのデータを収集。9歳から15歳までの子どもを持つ27%の借り手が少なくとも1人の子どもを学校に通わせていた。これらのデータを長い期間をかけて集め、Ujjivanでは家族の幸福度をはかること、及び教育に関連する金融サービスを作ることが可能となった。 これらの検証結果から、WWBは“ジェンダーパフォーマンス”を調査し、改善していく総合的なツール(注10)を発表した。金融機関がこれらの指標を使い、分析することで、彼らがどれだけ女性により良い金融サービスを提供できているか、彼女たちがどのように金銭的な目標や社会的使命に献身しているかという理解を更に深めていってほしいと願う。 ジェンダーに関するデータは、今後更に現状を変化させる可能性を秘めている。まだ最初の一歩を踏み出したばかりだ。もし金融機関が女性へのサービス提供に本気で取り組むとすれば、それを成し遂げる為のデータを収集し分析し続けなければならない。そうなれば、女性の借り手にとって有意義なアウトリーチ、金融サービスの提供を実現することが可能だ。もっと言えば、所得の低い女性たちが直面する障壁についての理解を深め、金融サービスへのアクセスを更に良くしていくこともできる。“ジェンダーパフォーマンス”は、女性たちの生活の安定性と成功を導く鍵となっているのだ。” GPIにより各マイクロファイナンス機関が借り手のニーズを踏まえたサービスをより効率的に向上させ、マイクロファイナンスを利用したくても利用できなかった女性たちの為にその要因を分析し一つずつ解消していった。結果、彼女たちの金融アクセスは拡大し、彼女たちの家族の生活、所属コミュニティ、村、地域全体へと影響を与えていく。 私たちLIPマイクロファイナンス調査チームでも、貧困削減効果の指標や調査方法について研究し、マイクロファイナンス機関の独自のアセスメント手法を確立することを目指している。これにより、貧困削減に効果的なファンド企画をサポートすることが可能となる。LIPマイクロファイナンスプロジェクトは、「全ての人にチャンスを」という目標を掲げ活動をしているが、社会の不平等を全てなくすことができなくとも、こういった指標やツールの活用はより多くの人々が平等に金融サービスにアクセスできる大きな第一歩となり、貧困をゼロに近づけていけると信じている。 【注釈】 (1)ウォール・ストリート・ジャーナル 2013年9月26日『【寄稿】「ウーマノミクス」の力を解き放つ』 (2)http://www.goldmansachs.com/japan/ideas/demographic-change/womenomics-2011/ (3)The Japan Times for Women Vol.3 (4)CGAP“Prove it: Measuring Gender Performance in Microfinance” (5)http://www.mixmarket.org/ (6)①力をつけること。また、女性が力をつけ、連帯して行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えていこうとする考え方。②権限の委譲。(中略)開発援助において被援助国の自立を促進するために行われる。(三省堂「大辞林」) (7)金融包摂(financial inclusion)とは、「社会の幅広い層に対する金融サービスの提供」を指す。 参照:白川方明「アジアにおける金融:バンキング・ビジネスと資本市場―国際コンファレンス・前夜ディナーレセプション (日本証券業協会主催)における基調講演の邦訳―」 G20ソウル・サミット(2010年11月)の合意を受けて、金融包摂行動計画を具体的に実施する主体である、金融包摂のためのグローバル・パートナーシップ(GPFI)が立ち上げられている(2010年12月)。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/cannes2011/annex06_j.html (8)http://www.womensworldbanking.org/publications/research/ (9)http://www.bmz.de/en/ (10)http://www.womensworldbanking.org/wp-content/uploads/2013/09/Womens-World-Banking-Gender-Performance-Indicators.pdf  (米山倫代)  

CSR(企業の社会的責任)のような慈善的な動機で企業は儲けられるのか?

Craig Howell, DSC07004, Checking out the in-ride photos http://goo.gl/B0agbz   CSR(企業の社会的責任)のような慈善的な動機で企業は儲けられるのか?~Pay-What-You-Wantによる価格付けと慈善的な寄付による実験~ 日本経済新聞の人気コンテンツ『私の履歴書』で、2013年12月はマーケティングの大家である経営学者フィリップ・コトラーが取り上げられ、氏のCSRに対するモチベーションが紹介されていた。企業が社会に貢献すること自体を否定する人はあまりいないだろうが、ビジネスにおける社会貢献は、そういった社会性だけでなく、営利性も両立することが求められるだろう。 ビジネスにおいて、営利性と社会性は両立するのだろうか。その一つの答えとなり得る論文として、『ヤバい経済学』のサイトFreakonomics(注1) で、CSRに関するGneezy(2010) の『共有化された社会的責任:支払いたいだけ支払う方法と慈善的な寄付に関する野外実験』(注2)(以下、Science論文)が紹介されていた。この論文は、CSRのような社会貢献によって収益が生み出されるのかどうか、慈善的な動機が商品価値を持つのかを検証している。 本ブログでは、まずCSRに関する2つの考え方について触れた上で、Science論文に登場するPay-What-You-Want(「支払いたいだけ支払う方法」の意味。以下、PWYWと略記)について説明する。続いて、この論文の結果を要約して、CSRのような慈善的な動機で企業は儲けられるのかという問いに対する一つの可能性を紹介する。 コトラーとフリードマンのCSRに関する考え方 フィリップ・コトラーは昔からCSRに関心を持っており、日本経済新聞『私の履歴書』の中で次のように言及している(注3)。 『「マーケティングに携わる人間は自らの活動が世界の資源など社会に及ぼす影響についてもっと責任感を持つべきだ」と強く思った。こうした考えを深く発展させるために企業が社会に対してどのような活動をすべきか、企業の社会的責任(CSR)の研究に取りかかることにした。』 『企業は道路、港湾設備などをはじめとするインフラを利用して収益を上げ、社会から多大な恩恵を受けている。その見返りとして企業はなんらかの形で社会に奉仕すべきだと思っていたからだ。』 『私と同じ考えを持つ研究者も多く登場した。ステークホルダー(利害関係者)という言葉を広めたエドワード・フリーマンが提唱した道義的責任の思想だ。「この国はあまりにも物質主義と自己中心主義に偏り過ぎた。企業には魂が必要だ。」これこそCSRの本質を突いていた。』 その一方で、コトラー氏の恩師であり、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンは、CSRをコストのようにみなし、否定的な立場であった。 『企業による寄付行為の是非について、かねてことさら強く反対していたのは私のシカゴ大学時代の恩師でノーベル経済学者のミルトン・フリードマンだった。彼は「ルールの範囲内で自らの資源を活用し、利益拡大のための活動に従事することに尽きる。CSRに積極的な企業は、寄付行為をせずに研究開発など競争力強化に投資する企業に太刀打ちできなくなる」と主張した。』 コトラー氏とフリードマン氏のどちらが正しいのだろうか。その答えとなり得るScience論文を紹介する前に、まずはScience論文のキーワードPWYWについて整理しよう。 PWYWについて PWYWとは商品やサービスの値段を供給者が設定せずに、需要者である顧客が支払いたい価格で購入するシステムのことだ。通常、支払いたい価格には0円も含んでいる。日本ではまだ耳慣れない言葉だが、ストリートパフォーマンスや募金やチップなどの事例が挙げられる。 ビジネスシーンにおけるPWYWの事例として最も有名なものの一つが、レディオヘッドの 7枚目のアルバムin rainbowsである。Wikipedia(注4) によると、『ダウンロード販売はバンドの公表によれば平均約4ポンド(約1000円)で購入された』(注5)とのことである 。この予想外の成功によってフォロワーが現れ、 St. Louis and ChicagoのカフェではいくつかのメニューでPWYWを採用したそうだ。 PWYWでは実際に購入されるまで販売価格が決まらないため、企業として売上目標が立てにくく、消費者にとっても買い物が不便になる可能性がある。PWYWが成功する条件として、『スマート・プライシング 利益を生み出す新価格戦略』 (注6)の『第1章 「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」方式の価格設定』にでは以下の5点が挙げられている。  生産コストの低い製品  公平感を持つ顧客  納得感のある幅広い価格帯  売り手と買い手の良い関係性  競争的な市場 ※ブログ執筆者翻訳 レコード市場が競争的かどうかの判断はともかく、CDそのものの原価は安く、ファンがアーティストをリスペクトしていれば、CD販売においてPWYWはうまくいくのかもしれない。 PWYW戦略と慈善的な寄付で儲かるのか? それでは本流に戻ろう。Science論文では、PWYW戦略と慈善的な寄付を組み合わせてより多くの収益を生み出すことができるのか、ディズニーリサーチとコラボして検証している。利用された商品は、アミューズメントパークでアトラクションを楽しんでいる間に撮影される次のような写真である。 イメージ画像の出典 http://bit.ly/Qx30TT   このような写真を利用し、寄付の有無とPWYW方式の効果について次の2つの仮説を検証するために(a)〜(d)4パターンの価格付けによって、どのパターンが最も高い売上を達成するのか分析した。 仮説1:慈善的な寄付で顧客はより多く支払うのか? (a) 【通常の販売方式】価格は12.95ドル、寄付なし (b) 【伝統的なCSR】価格は12.95ドル、支払額のうち50%を寄付 仮説2: PWYWで顧客はより多く支払うのか? © 【PWYW方式】価格はPWYW方式、寄付なし (d) 【新しいCSR、共有化された社会的責任】価格はPWYW方式、支払額のうち50%を寄付 これら4パターンの価格付けの意図を確認しよう。仮説1では、販売価格を定価12.95ドルに固定し、寄付の有無によって売上が増えるのかどうかを比較検証している。(a)は寄付のない通常の販売方式である。(b)は支払額のうち50%がユニセフや赤十字のような団体に寄付されるというオプションが付いている。仮説2では、寄付の有無だけでなく、PWYW方式によって顧客はより多く支払うようになるのかを検証している。©は寄付がなく、顧客が自由に支払額を決められるPWYW方式である。(d)はPWYW方式に(b)のような寄付オプションが付いている。Science論文では 固定価格で寄付オプションのある(b)を伝統的なCSRとし、(d)をShared Social Responsibility(「共有化された社会的責任」を意味。以下、SSRと表記)として新しいCSRと呼んでいる。 出典 Science論文 Figure 1, p.326 その結果がFigure 1にまとめられている。棒グラフは左から(a)〜 (d)それぞれの平均販売価格を示している。(d)のPWYW方式で寄付オプションあり(新しいCSR= SSR)が最も高い販売価格(0.198ドル )と なった。これは(b)の固定価格方式で寄付オプションあり(伝統的なCSR)の販売価格(0.071ドル )に比べ、統計的に有意な差になっている。従って、PWYW方式と寄付オプションを併用するSSRによって、企業は伝統的なCSRよりも多くの収益を生み出し得ることが示されている。 Gneezyらは、このPWYW戦略と慈善的な寄付を活用したマーケティングを「負け組が存在しないシナリオ 」として評価している。企業としてディズニーはより多くの売上を得られ、社会貢献のための寄付金が生み出され、顧客は寄付によって幸福度が増した。こういった負け組が存在しないシナリオ を描くことは、通常の経済学では珍しいからだ。 上述のScience論文は、慈善的な動機が商品価値を持ち、売上向上に貢献し得ることを示唆している。つまり、ビジネスにおいて、通常の商品よりも社会貢献や慈善的な要素を含む商品がより多く売れる可能性を示している。今後この知見をマーケティングに応用するならば、ミクロの個人レベルの分析によって、どのような属性(年収や家族構成など)を持つ人がそういった要素を高く評価するのかを明らかにすることが有用であろう。 LIPでは貧困削減というミッションのもと、発展途上国におけるマイクロファイナンスファンドの調査・企画に取り組んでいる。今回紹介したScience論文では、貧困削減に貢献するファンドの『貧困削減』という要素により、そのファンドの商品価値が増す可能性が示された。より多くの人にLIPの活動に共感してもらえるように、マイクロファイナンスの貧困削減効果の説明責任も果たしていきたい。 参考資料 Gneezy, A., U. Gneezy, LD Nelson and A. Brown (2010) Shared social responsibility: A field experiment in Pay-What-You-Want pricing and charitable giving, Science, 329, 5989, 325-327. Supporting […]

ローンだけじゃないマイクロファイナンス

ローンだけじゃないマイクロファイナンス〜カンボジアにおけるマイクロインシュアランスの事例〜 「マイクロファイナンス」と聞くとついついマイクロクレジット(小口融資)だけを考えがちですが、ファイナンス=金融ですから、本来は融資に限らず小口の金融サービス全体を指す言葉です。 現状ではまだ融資事業がほとんどですが、少しずつ預金や保険などの金融サービスも登場しています。将来に向けてお金を貯蓄したり、もしもの時に備えて保険に入ったり、どれも人々の生活の安定のために重要な金融サービスですね。 今回は特にカンボジアにおけるマイクロインシュアランス(小口保険)について、2つの事例を紹介したいと思います。 一つめは、2011年末からカンボジアでマイクロインシュアランスを提供しているKPMIという小口保険会社です。KPMIはフランス系保険会社Prévoirの子会社にあたり、Prévoirはフランスとカンボジアの他に、ポルトガル、ポーランド、ブラジル、ベトナムにも拠点を持っています。カンボジアでは財務省による小口保険に関する規制や仕組み作りが2011年にひとまず完成し、KPMIはその仕組みにのっとって公式に認可された最初の小口保険会社です。 KPMIは直接個人に対して保険を提供するだけでなく、カンボジアの3つの中堅マイクロファイナンス機関と連携して、ローンの借り手に対して小口保険を提供しています。このサービスでは、年間5ドルの保険料を払うと、病気になった際の医療費が最大150ドルまで補償されます。(150ドルはカンボジアの1人当たりGNI(国民総所得)の約4分の1に相当します。)KPMIと提携している医療機関であれば、医療費を一度立て替える必要もなく、直接KPMIが医療機関に支払ってくれます。立て替えるお金を用意するだけで困難な場合もありますから、これはありがたい仕組みですね。 ※KPMIの小口保険サービスに関してさらに詳しく知りたい方は以下の公式サイトやニュース記事をご参照ください(英文) http://www.pkmi.asia/index.php http://www.phnompenhpost.com/special-reports/insurance-poor http://www.phnompenhpost.com/special-reports/micro-insurance-takes-hold 二つめに紹介するのは、LIPが協力するファンドの投資先であるSamicというマイクロファイナンス機関の借り手に提供されている小口保険サービスです。CHCというNGOが提供するMEADAという保険プログラムなのですが、もともとSamicもCHCをルーツとする機関なので、新たに外部団体と提携したわけではなく母体を同じくする仲間と一緒にやっているということになります。もともと2007年にパイロット事業として始まり、千人以上の顧客を獲得。今では約2万人に利用されているそうです。 MEADAの主なサービスは、借り手が死亡してしまった際にローン残高の支払に充てられる生命保険です。例えば、900ドルのローンを借りた場合、年間15ドルの保険料を払えば、万一死亡した際にローン返済が免除されるそうです。保険に加入していれば、一家を支える稼ぎ手がもし死亡してしまっても、残された家族はローンの返済に追われずにすみます。日本でも住宅ローンを借りる時にこのような生命保険に加入することになっていますね。(団体信用生命保険と呼ばれています。) ※Samic, MEADAの小口保険サービスに関してさらに詳しく知りたい方は以下の公式サイトやニュース記事をご覧ください(英文) http://www.samic.com.kh/index.php?option=com_content&view=article&id=14&Itemid=14&lang=en http://www.phnompenhpost.com/business/micro-life-insurance-rise ※また、LIPが作成したSamicのアナリストレポートでもSamicの小口保険サービスについて概要を紹介しています。 http://www.living-in-peace.org/_common/img/pdf/LIP_Report_No8.pdf ※さらに、カンボジアの事例ではありませんが、LIPが協力するファンドの投資先であるベトナムのTYMというマイクロファイナンス機関でも保険サービスを提供しています。こちらもLIP作成のアナリストレポートで概要を紹介しています。 http://www.living-in-peace.org/_common/img/pdf/LIP_Report_No9.pdf このように徐々に発展しつつあるマイクロインシュアランスですが、まだまだ問題も多いようです。2013年に国連が実施した調査では、調査対象となった302人のカンボジア人のうち、17%が現在何らかの小口保険を利用している一方、なんと70%もの人々が過去に小口保険サービスを契約したことがあるものの現在は利用を辞めてしまっていることが明らかになりました。この人々が具体的にどの機関のどのような保険を利用していたのかは不明ですが、サービスの使い勝手の悪さや、契約の複雑さなどが辞めた理由として挙げられています。国連はカンボジア政府や金融機関に対して、より貧困層のニーズに沿った保険サービスを開発するよう求めています。 ※詳細は以下のニュース記事をご参照ください(英文) http://www.phnompenhpost.com/business/micro-insurance-needs-revamp-un 最後に、このニュース記事から、国連のエコノミストの発言を紹介したいと思います。 「カンボジアの貧困層は(病気や不作など)何らかの危機に瀕した時に、マイクロクレジット(小口融資)に頼りがちになっています。このようにして多額の債務を負ってしまうと、世代を超えた貧困の連鎖を巻き起こしてしまいます。」 “low-income communities have become dependent on microfinance loans in times of crisis. This will undoubtedly result in over-indebtment and may lead to intergenerational poverty transmission.“ マイクロクレジットは貧困削減に効果的だと考えられており、実際に今回紹介したSamicを始めとして、LIPが協力するファンドの投資先であるマイクロファイナンス機関でも、ローンの活用により生活が大きく改善した借り手が数多くいます。一方で、病気や不作などの際にむやみにローンを借りすぎてしまうと、返済に追われて貧しくなり、さらに子どもの世代も返済に追われてしまう、という貧困の再生産につながりかねない危険もあります。ローンだけではなく保険も含めて適切な金融サービスが普及し、それによってローンもより安心して効果的に活用できるようになると、貧困削減へのさらなる後押しになりそうです。 今回は実務の観点からマイクロインシュアランスを紹介しましたが、学術的な観点からマイクロインシュアランスを説明した本として、「貧乏人の経済学」第6章 “はだしのファンドマネージャ” がオススメです。ファンドマネージャが資産運用の際に様々なリスクに直面するように、貧困層(章のタイトルの”はだし”はメタファー)も天候、健康、失業、食料など様々なリスクに日々さらされています。この章の最後では、発展途上国で保険が普及すれば、先進国からの補助金も減り、貧困層も自力でリスクヘッジできるのではないか、と展望がまとめられています。興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。 (伊藤紘子)

マイクロファイナンスファンドについて

従来の開発援助のアプローチとは違った持続的な支援の仕組みがマイクロファイナンスファンドです。 マイクロクレジットの潜在的な需要は2,800億ドルとも言われています。 しかし、170億ドルほどしか供給されておらず、広く民間からの資金供給が期待されています。 現在、世界で約1億の人がマイクロファイナンスを利用していますが、その一方で、 潜在的な顧客は15億人に上ると言われています。 従来、マイクロファイナンス機関への支援は、国際機関や政府系開発銀行等からの公的援助資金で行われていました。 しかし日本でもODAが年々減らされているように、公的援助資金には限界があり、急成長するマイクロファイナンス市場に、 その資金供給が追いつかないという新たな問題が生じています。 そこで登場したのが、マイクロファイナンスファンドなど マイクロファイナンス投資ビークルと言われる仕組みです。 マイクロファイナンス投資ビークルを通して、マイクロファイナンス機関は資金調達を行い、 先進国の投資家はグラミン銀行のようなマイクロファイナンス機関に資金提供ができます。 言ってみれば、マイクロファイナンス投資ビークルは途上国のマイクロファイナンス機関と先進国を結ぶ架け橋です。 マイクロファイナンス投資ビークルの登場により、従来からのドナーに加え、 社会的責任投資家から年金基金などの機関投資家、 ヘッジファンドまで、実に多様な投資家がマイクロファイナンス市場に参加できるようになりました。 成功したマイクロファイナンスモデルの持続可能性や収益性が認められた結果、 ここ数年でマイクロファイナンス機関の数は一挙に増え、現在は世界に約100以上あります。 2007年には初めて、マイクロファイナンス投資総額に占める民間資金の割合が、国際金融機関からの資金割合を越えました。 * 第2種金融商品取引業者の登録のないLIPは、金融商品の勧誘、募集等の行為は一切行っておりません。マイクロファイナンスファンドにつきましては、提携先のミュージックセキュリティーズ社にお問合せください

私たちがMFファンドに取り組む意義

今後のマイクロファイナンス機関に対する投資拡大のための呼び水となること、それが、このプロジェクトの意義です。   様々な学びの機会の提供 私たちは、今回のプロジェクトを行うなかで、フィリピン最大のマイクロファイナンス金融機関であるCARDと業務提携を結びました。今後、CARDの研修施設等を利用したトレーニングプログラムを準備します。 同様に、カンボジアの現地マイクロファイナンス機関とも業務提携を結び、現地スタディツアーその他、さまざまな学びの機会をコミュニティメンバーの方々に提供する予定です。 このプロジェクトに投資家やサポーターとして参加してくださった皆様が、現地での様々な学びの機会に接することにより、今後のマイクロファイナンス機関への投資を拡大するための、人的基盤を徐々に築きあげていくと考えています。日本初であること今回のファンド・プロジェクトは、さほど大きな規模のものではありません。 そのため、カンボジアへの移動費などだけを考えても、多くの費用がかかってしまい、結果、本来より投資リターンが低くなっています。 それでも私たちは、このファンドは非常に価値あるものになると確信しています。 私たちの取り組みが成功すれば、少しずつ投資実績が積み上がり、日本からマイクロファイナンス機関への投資の機会が拡がっていくと期待しているからです。 今回、私たちが企画・情報提供しているマイクロファイナンスファンドは、カンボジアにあるマイクロファイナンス機関CHCの資金調達を支援するものです。下記では、私たちが、なぜカンボジアに投資をすることにしたのか、なぜCHCなのかについてご説明させていただきます。   カンボジアを対象とする理由   経済成長の可能性の高さ ▼周辺国との経済ギャップ 世界銀行の2007年の資料によると、カンボジアにおける一人当たりの所得は約650ドルで、これは周辺国に比べて低くなっています。 一人当たり所得が小さなカンボジアにおいては、私たちがファンドを通じて送るお金がより多くの人に新しい機会を提供することができます。 また、カンボジアではタイやベトナムなどの周辺国との交易も盛んに行われているため、 中長期的には周辺国と同じ程度に経済が成長する力があと私たちは考えています。 ▼親の教育意欲の高さ カンボジアにおける学校普及率はまだ高いとは言えません。 しかし、草の根レベルでの親の教育意欲は決して低くないと私たちは考えています。 カンボジアの各地で見ることができるのは、小さな塾です。 村の中でホワイトボードにペンを片手に勉強を教える先生と、小さな頭を寄せ合いながら勉強する子どもたちの姿を、多くの場所で見ることできます。 平均的な所得が決して高いとはいえない国で塾が成立するような国は、 かならず長期的に成長すると私たちは考えています。   マイクロファイナンス市場の成長性 ▼潜在的な成長可能性の高さ 2008年末において、カンボジアの人口1300万人強に対して、 金融機関から借入を受けている人は70万人にも達していません。 マイクロファイナンス機関利用者はそのうち50万人弱と言われていますが、 まだ飽和段階には遠い状況です。このことから私たちは、今後も市場は順調に成長していくと考えています。 ▼規制の水準の高さ 王政下でマイクロファイナンスを推進する活動が進められてきたカンボジアのマイクロファイナンス規制の水準の高さは、 開発途上国の中でもトップクラスにあります。認可を受けたマイクロファイナンス金融機関が18しかないことは、 この規制水準の高さ・厳格さに一因があります。   アジア大陸にあり、日本と関わりも深いこと 私たちの数度にわたる現地視察や投資家のスタディツアー等の実施を考慮すると、 地理的に近いことは、重要なポイントになります。カンボジアは東南アジアに位置し、 直通便はないものの日本から比較的楽にいける国の一つです。 また、カンボジアを支援する人々が日本に多く、そのために比較的知名度が高いのも特徴的です。 印税やセミナーによる収入をカンボジア支援に充てているワタミの渡邉美樹社長、 学校を作るプロジェクトを行っている「行列のできる法律相談所(テレビ番組)」、 児童買春を防止するためのNPOである「かものはしプロジェクト」など、さまざまな人、 団体がカンボジア支援のためにお金と労力を割いています。   CARDという強力な先達の存在 私たちは、今回のプロジェクトを進めるにあたり、私たちの知識と経験をより強固なものとすること、 最前線の情報を手に入れることなどを目的として、フィリピン最大のマイクロファイナンス金融機関である、 CARDと業務提携契約を結びました。 CARDの現地駐在員は、私たちの心強い水先案内人となってくれています。   CHCを対象とする理由 設立の経緯から貫徹されているビジョンが明確であること 私たちがまず重視したのは、マイクロファイナンス機関の有しているビジョンです。 明確なビジョンは、事業の全体的な効率を高めるだけではなく、企業が苦しい時期を耐え抜く力を与えてくれます。 CHC(Cambodian Health Committee Limited)は、 結核やHIV/AIDSの蔓延を防ぐことを目的としたCHC NGO(1994年設立)をルーツとしています。 公衆衛生・開発セクターにおける活動に25年以上従事してきたSok Thim氏が、 保健事業の重要性と同様に資金面のサポートが貧困層の削減に寄与するという信条から開始したマイクロクレジット事業が、 そのはじまりとなっています。 もちろん、ビジョンがただあるだけでは十分ではありません。 ビジョンは、その組織で働く人の中に体現されてこそ、はじめて意味を持ちます。 私たちは、数度のカンボジア訪問を通じて、 このビジョンが経営陣や管理職の間で確かに共有されていることを感じることができました。   成長途上のマイクロファイナンス金融機関であること 私たちが重視している点の一つは、規模の小さいマイクロファイナンス機関を選ぶということでした。 世界的にマイクロファイナンス機関への投資が進むなか、知名度の高い大規模な金融機関が多額の資金調達を好条件でできるのに対し 、新興マイクロファイナンス機関は資金難に悩まされやすいという現状があるためです。 今回のパートナーであるCHCは、カンボジアの18ある認定マイクロファイナンス金融機関のなかでも中程度のランクにある金融機関です。 そのため、日本からの数千万円の投資も、大きな力となりえます。   現地スタッフの魅力 「金融機関の資産は人である」とよくいわれます。 システムや設備などが模倣可能であるのに対し、従業員の質の模倣は容易でないためです。 私たちは現地のフィールドスタディを通じて多くの現地スタッフに接してきました。 一人一人が、しっかりとしたトレーニングを積み、かつ貧困を削減するための使命感を有していました。 対外的にはそう目立たない従業員一人一人の能力とモチベーションは、組織の強さに決定的な違いをもたらします。   CARDの投資・提携先であること さらに私たちのCHCへの信頼を担保しているのは、私たちと業務提携を結んだCARDの存在です。 フィリピン最大のマイクロファイナンス機関であるCARDはCHCと資本関係を有しているだけではなく、 現地にスタッフを派遣し、人的・技術的なサポートも行っています。 これは、初めての取り組みを成功させるために不可欠な信頼の基盤を提供するとともに、CHCのオペレーションの質の高さを保証すると、私たちは考えています。 * 第2種金融商品取引業者の登録のないLIPは、金融商品の勧誘、募集等の行為は一切行っておりません。マイクロファイナンスファンドにつきましては、提携先のミュージックセキュリティーズ社にお問合せください ※この記事は、旧LIPサイトから引き継いだ記事で、書かれている内容は必ずしも最新の状況を反映しておりません

MFIの資金調達

さて、28日のフォーラムでは、スタンダードチャータードのプレゼンもありますが、昨今の欧米におけるマイクロファイナンス投資を理解するためには、MFIsの資金調達の仕組みを理解することが不可欠です。 前回、商業化するMFIsの業態転換の流れをまとめましたが、段階の異なるMFIsでは、資金ニーズや資金調達の選択肢が異なるのです。今回は、商業化の各段階におけるMFIsの資金調達方法をまとめてみようと思います。 通常、初期MFIs(NGO-MFIs)は、マイクロクレジットの原資となる資本は補助金等により既に確保されています。(予算がついた上で、プログラムが始められる場合が多いでしょう。)このため、初期のオペレーションにおいては、MFIsは主にバランスシートのアセット側のマネジメント、つまり、ポートフォリオの拡大、経営情報システム(Management Information System: MIS)の導入、キャッシュ・マネジメント等に経営努力が注がれます。やがて、これらの努力によりビジネスが軌道に乗ると、ポートフォリオを拡大するために、バランスシートの右側の構築、すなわち、新たな資金調達方法の開拓が始まります。 表にあるように、受贈資本のみで始めた初期NGOに、新たな資金ニーズがある場合、まずは援助資金を頼みとし、ドナーの新規開拓や既存ドナーからの追加的な補助金により調達をします。次に、収支が均衡し多少の剰余金を生み出せる自立的NGOになると、多少の信用ができるため、今度は同じ援助資金でも、補助金ではなく、ドナーや援助機関から市場金利より低い金利での借入れ(Concessional loan)ができるようになります。金利は払うものの、選択の幅は広がり、自由度が高まります。 しかし、一般的に援助資金というものは、限定的で、中・長期的な資金計画を立てる上では、非常に不安定な財源と言えます。なぜなら、MFIs自身のパフォーマンスとは無関係に、政治的、経済的状況等により、いつ打ち切られるのか、次年度あてにできるのかすら確かではないからです。また、マイクロクレジットが高金利なのはよく知られていますが、追加融資の条件として、それがコストをカバーするのに必要な金利であるかどうかに関わらず、一方的に金利の引き下げを要求されることもあると言います。 さらにビジネスが拡大し、資金ニーズが高まると、今度は市場金利での商業借入(Commercial borrowing)により資金調達を図ります。しかし、この段階で、NGO-MFIsは壁にぶち当たります。いくら実績のある成熟NGOとは言え、貸し手は、特に地場銀行は、なかなかNGOには融資をしないからです。仮にしたとしても、高リスクとみなされるため金利は高く、融資限度額も低い(エクイティに対して、同程度か最大でも2倍程度)ので、急成長するポートフォリオの成長速度を維持するのは困難になります。事実、多くのMFIsにとって最大の成長制約要因は資金調達であることが指摘されています。 例えば、MFのパフォーマンス評価基準の一つであるAccion CAMELでは、MFIsの負債比率は6倍以下であること、つまり自己資本比率が17%以上であることが推奨されています。 しかし、このようなMFIs対象の基準はあっても、前提となっているのは、業態転換を遂げたMFI銀行だけであり、NGO-MFIsなどは、そもそも想定の範囲外ということになります。つまり、MFIssがレバレッジを効かせ、資本市場からより多くの資金を調達するためには、NGOからMFI銀行への転換を遂げることが不可欠であり、それが、預金業務の展開と並んで、MFIsが甚大なコストをかけても商業化していく大きな要因となっています。 このような事情を背景に、見事業態転換を果たしたtransformed MFIsは、資金調達手段として、預金の動員、株式発行、そして債券発行と、その選択肢を広げていくのです。 預金については、しばしば最も低廉な調達手段と思われがちです。しかし、商業借入がオペレーションコスト等の追加的なコストが一切かからず、金利のみを負担すればよい一方で、transformed MFIsが新たに預金サービスを始める際には、貯蓄商品の開発、マーケティング、セールス、新たなMISの導入等のインフラ整備に多大なコストがかかるため、少なくとも短期で見れば、必ずしも最安の調達方法とはいえないわけです。ただし、預金サービスの提供はMFIにとって重要な資金調達源を確保するのと同時に、顧客サービスの向上であり、マイクロクレジットは必要としていないが、安全なお金の保管場所を必要としている多くの貧困層へアウトリーチを広げる可能性がある、という点も忘れてはなりません。 ということで、今日はここまでにしたいと思います。フォーラムまで本当にもう少しですが、明日時間が作れれば、MIVs(Microfinance Investment Vehicles)についても、簡単にまとめたいと思います。 《参照文献》 ・Burand, Debora. 2007. “Chapter6.: The funding structure”, Transforming Microfinance Institutions, p163. ・CGAP/MIXが2004年に行った調査。http://microfinancegateway.org/files/14588_CGAP_MIX_MFI_Demand_for_Funding_Survey_Report.doc ・Saltzman,Sonia. and Darcy Salinger. 1998. “The ACCION CAMEL – Technical Note”, Accion International, USAID – Microenterprise Best Practices (MBP) Project. p137. ※この記事は、旧LIPブログから引き継いだ記事で、書かれている内容は必ずしも最新の状況を反映しておりません  

MFIの商業化

皆さん、こんにちは。もうマイクロファイナンス・フォーラム(11/28)のお申込はされましたか?講演者の方からのプレゼン資料が揃いつつありますが、かなり面白いです! まだお申込をされていない方は、そろそろ定員に達しそうな勢いですので、お早めにお申込ください。 さて、プレゼン資料を確認したところ、皆さんのプレゼンの中でカバーされていないけれども、前提として知っておいた方がいい点にいくつか気付きました。もうあまり時間はありませんが、これからフォーラム当日までの間に、できる範囲でまとめてみようと思います。 まずは、マイクロファイナンス機関(MFIs)の商業化についてです。MFIsの商業化とは、言ってみれば、MFIsの業態転換の繰り返しに他なりません。 MFIsの類型 MFIsは一般的に、創設期にはNGOの形をとり(NGO-MFIs)、やがてビジネスを拡大させ、よりフォーマルな金融仲介業者としての地位を確立していく中で許認可を取り、公的機関の監督下に入り(regulated MFIs)、さらには「MFI銀行」へと業態転換していきます(transformed MFIs、或いはMFI Banks)。また、国により異なりますが、預金業務をするためには特別なライセンスが必要な場合が多く、そのため、預金業務を行えるMFIsのことを特に区別して呼ぶ場合もあります(deposit-taking MFIs) 。 業態転換の過程で満たさなければならない要件は、国際金融システムにおけるグローバル・スタンダードに則った適切な財務管理や財務報告書の作成、外部監査、内部統制、リスク管理、透明性の確保、情報開示など多岐にわたり、MFIsにとってはかなり厳しいものです。しかし、だからこそ、見事、業態転換を遂げ、組織の足腰を強化したMFIsは、先進国の投資家からも認められ、資本市場での資金調達が可能になるのです。 ダウンスケーリング 世界人口の8割には金融サービスへのアクセスがない(Unbanked)と言われるほど、これまでは、伝統的な銀行や金融機関は、途上国・先進国を問わず、低所得層への与信には極めて慎重でした。しかし、MFIsの中からいくつもの成功モデルが出現し、MFの社会的な効率性と収益性が認められるにつれ、少なからぬ商業銀行・金融機関が、MFIへの技術支援、リファイナンス、エクイティ投資等の間接的な方法や、ダウンスケーリングと言う直接的方法でMF市場に参入するようになっています。 ダウンスケーリングの手法としては、既存の銀行・金融機関がその枠組みの中で、MF層向けの金融商品やサービスを開発する方法や新たにマイクロファイナンスに特化した部・局や子会社をつくる方法、マイクロクレジットの引受業務を地場のMFIにアウトソーシングする方法等があります 。いずれにしても、商業銀行がMFに参入した場合、新たにMF市場の知識、クレジット手法、適切な組織文化などが求められる一方で、既存のインフラやネットーワークが使える点や資金調達の容易さ、知名度などで優位性が認められるようです。 このようなプライベート・セクターの参入は、これまではもっぱら貧困削減という社会的使命によって支えられていたマイクロファイナンス機関の商業化を加速させました。商業化とは、利潤を追求していくことですが、その中で、貧困対策という組織の元々の理念とどのように両立させるのかが最も難しい課題の一つとなっています。完全な商業主義の道を選択する例はほとんどなく、多くの場合には、貧困層へのアプローチと利潤追求の両方を目指す「ダブルボトムライン」を掲げるようです。 次回は、MFIsが業務形態に応じて、いかに資金調達を行うのかをまとめようと思います。 《参照文献》 ・ADB年次報告2004.「特別レポート 変貌しつつあるマイクロファイナンス業界:貧困層のための金融システムの構築」 ・CGAP. 2006. “Good Practice Guidelines for Founders of Microfinance”.p35. ・CGAP. 2004. “Financial Institutions with a ‘Double Bottom Line’: Implications for the Future of Microfinance.” Occasional Paper No.8, CGAP, Washington, DC. ・PlanetFinance. “Downscaling in Microfinance: A market opportunity for banks”.http://www.planetfinance.org/documents/EN/note-downscaling-eng.pdf ・Accion. “Commercial Banks in Microfinancing: Downscaling to reach the majority”.(presentation). ※この記事は、旧LIPブログから引き継いだ記事で、書かれている内容は必ずしも最新の状況を反映しておりません  

グローバル金融機関とMF

1.グローバル総合金融サービス企業とマイクロファイナンス 開発途上国における小口融資を目的としたマイクロファイナンスですが、今日では、ゴールドマン・サックス、シティグループ、リーマンブラザーズといった、グローバル総合金融サービス企業も、当事業に参画を始めています。 今回は、2007年5月にモルガン・スタンレーが証券化して販売したBlue Orchard Loans for Development 2007-1(“BOLD2”)について、取上げてみます。   2. モルガン・スタンレー Blue Orchard Loans for Development 2007-1 モルガン・スタンレーは、スイスを基点とするマイクロファイナンス投資ファンドに特化したマネジメント会社、ブルーオーチャードと提携して、2007年5月に、ローン担保証券(Collateralized Loan Obligations、以下、「CLO」。)を開発しました。アゼルバイジャン、ボスニア、カンボジア、コロンビア、ケニア、モンゴリア、ニカラグア、ペルー、セルビアといった、12カ国発展途上国に基点を置く20マイクロファイナンス機関(Micro Finance Institutions 以下、「MFI」。)への無担保貸付債権を集めて債権プールを作り、これを裏付けに発行されるCLOを開発、販売しました。マイクロファイナンスの証券化です。 ヨーロッパ、アメリカの銀行、保険会社、投資信託、ヘッジファンドといった、21投資家から集められた110.2百万ドル(約1,100億円)相当の資金は、MFIを通じて、途上国の70,000もの低所得層の起業家に融資されました。 途上国での融資は、現地通貨によって行われますが、一方、投資家を為替リスクよりヘッジするために、通貨はUSドルや英国ポンドといったCLO発行通貨にスワップされます。 モルガン・スタンレーとブルーオーチャードは、2006年にも同様のローン担保債権(BOLD1)を発行していますが、今回BOLD1との大きな違いは、トランシェを異なるリスクレベルで切り分けることで、一部トランシェについて、スタンダード&プアーズによる格付けを得ることが出来たことです。各トランシェについての情報は下記の通りです。AA格付は、当時のウォールマート等と同様です。 (出所:http://www.morganstanley.com/about/press/articles/4977.html) 2008年3月にリリースされたブルーオーチャード ニュースレターによると、20MFI全てが、同月、四半期利払いを期日通りに行っており、投資家に対しても、既に、過去3回分配を行っています。 また、20MFIは、2007年中、全地域において成長を続けており、全資産は、30.7億USドル(約3,070億円)になります。以下のグラフからもその様子は伺えます。 (出所: http://www.blueorchard.org/jahia/Jahia/site/blueorchard/Products/pid/144)   3. グローバル総合金融サービス企業とマイクロファイナンスの今後 ゴールドマン・サックスは、2008年3月に、今後5年間で1,000億USドル(約10兆円)をマイクロ・ファイナンス顧客、すなわち、途上国におけるエンド融資利用者の教育に投資していくと発表しています。彼らに、ビジネス・プランニング、マーケティング方法等を学習してもらうことにより、彼らのビジネス・スケール、ひいては、マイクロファイナンス事業の拡大を目指しています。 このようなグローバル金融サービス企業の日本におけるマイクロファイナンスに関する取組みなどについても、今後、レポートしていきます。 ※この記事は、旧LIPブログから引き継いだ記事で、書かれている内容は必ずしも最新の状況を反映しておりません

ポートフォリオについて

American Economic Association(全米経済学会)が刊行するAmerican Economic Journal: Applied Economics(全米経済誌:応用経済学)の2015年1月号は、マイクロファイナンス特集で、マイクロファイナンスの貧困削減効果に関する6本の論文を掲載しています。 エスター・デュフロとアビジット・バナジー著の『貧乏人の経済学』やディーン・カーランら著の『善意で貧困はなくせるのか?』で取り上げられている研究も含まれています。このマイクロファイナンス特集をCenter for Global Developmentがブログ『The Final Word on Microcredit?』で簡潔にまとめているので、紹介いたします。 本ブログのタイトル『マイクロファイナンスは貧困削減に効果があるのか?』に対する回答は、『まだまだ最終的な答は出ていない』と言えそうです。 貧困削減の定義を、①お金を借りられるようになったかどうか、②ビジネスをはじめたかどうか、③所得の増加、④消費の増加、⑤社会福祉的な影響、と5通りにし、ランダム化比較実験(※RCT、臨床試験で使われ、治療効果を厳密に計測する手法)によって、マイクロファイナンスが貧困削減に効果があるかどうかを調査しました。その結果が次の表です。 ①お金を借りられるようになったかどうかは、6つ全ての研究において、統計的に有意(=偶然ではなさそう)に正の効果がありました。つまり、発展途上国の人々はお金を借りる権利を享受できるようになった、ということです。一方で、③所得の増加は有意な差が見られず、④消費の増加は増える場合も減る場合も差が見られないこともありました。要するに、大まかにまとめると、マイクロファイナンスは経済的な意味で、効果があったとは言えないようです。 マイクロファイナンス機関を支援するLiving in Peaceとしては、これは嬉しい研究結果ではありません。そして、それは筆者も同様なよう。今回の結果からマイクロファイナンスに価値がないと判断するのは違う、と以下のふたつの観点から主張するのです。 一つ目は、自由の価値です。筆者は、マイクロファイナンスの研究者David Roodmanの言葉『if development is freedom, and freedom means a bigger choice set, then microcredit is successful development. People are choosing to borrow and invest in ways they couldn’t before.(意訳:もし開発が人々の自由を意味し、そして自由がより多くの選択肢を享受することを指すならばマイクロファイナンスは開発として成功している。人々は、以前はできなかったお金を借りる・投資する、という行為ができるようになるのだから)』を引用しつつ述べます。①の「お金を借りられるようになったかどうか」に正の効果がある時点で、マイクロファイナンスは発展途上国において価値があるのではないか。少なくとも、人々はビジネスを始めるなど新しいことに挑戦できるのだから、と。①の効果は、日本で感じられる以上のものなのかもしれません。 二つ目は、マイクロファイナスの効果は地域やケースごとに異なり、不均質であるという点です。次の図『マイクロクレジットの効果は小さくも大きくもなる(筆者意訳)』では、6つの調査について収入と消費がどれだけ変化したかを図示しています。横軸は年間の米ドル(比較できるように購買力平価で換算済み)です。収入の効果を見ると、ボスニアは700ドル増加でモンゴルはゼロ。消費の効果を見ると、ボスニアは700ドル減少でモンゴルは600ドル増加という風に、大きくバラつきがあるのが分かりますつまり、効果があるともないとも言えないのです。加えて、女性だけに特化したマイクロファイナンスローンもあれば、個人向け、グループ向けのローンもある。利子も異なる。そもそも条件や前提が違うのだから、効果が違うのは当然だとも筆者は述べます。 マイクロファイナンスの貧困削減効果は未知数。まだ最終的な答は出ていません。「自由の価値」のように数値化できないものもありますし、調査結果に非常にバラつきがあるからです。そのうえで、筆者は今回、6本の論文が掲載されたことはマイクロファイナンス業界の大きな前進である、と前向きにブログを締めくくります。 最後に、私のこれまでカンボジアに2回、ベトナムに1回訪問経験に基づいた、マイクロファイナンスの効果に関する考えをまとめます。マイクロファイナンスの価値を日本の住宅ローンに例えてみます。住宅ローンの返済が苦しくなる人もいれば、きちんと返済できてより良い生活を送れる人もいます。住宅ローンによって借り手が必ずしも経済的に豊かになることはないかもしれませんが、自分の住みたい家を選択することができて、人生が豊かになります。 マイクロファイナンスの利用者が住む発展途上国の地方において、モダンな工場やオフィスが建設されるには、道路や電気や水道など、最低限のインフラが必要です。短期的にそれが実現できない状況において、彼らが自力で豊かになる得る手段として、マイクロファイナンス以上に普及している支援やサービスはおそらく存在しません。 限られた機会ですが、エネルギッシュに働く現地の借り手の方たちを訪問しました。もしマイクロファイナンスがなかったら、この人達は自分のポテンシャルを持て余して、不完全燃焼の日々を送っていたかもしれません。少なくとも彼らにとっては、マイクロファイナンスによって豊かになる機会が提供され、それをうまく活用しているように見えました。 マイクロファイナンスは万能薬ではないので、貧困削減に効果がある場合とそうでない場合があります。今後さらに研究が蓄積されることで、どのような人には貧困削減効果があり、どのような人に効果がないのか明らかになれば、より貧困削減効果の高い金融サービスや支援のデザインに役立つと期待されます。 文責:菅原崇@takashifc 参考資料https://www.aeaweb.org/articles.php?doi=10.1257/app.7.1http://www.cgdev.org/blog/final-word-microcredit

割引現在価値

ファイナンスの基礎-割引現在価値 ファイナンスの重要なコンセプトに割引現在価値というものがあります。たとえば、次のことを考えてみましょう。 現在あなたの手元にある100万円と1年後の100万円は同じ価値をもっているでしょうか?直感的に同じ価値ではないと感じると思います。現在手もとにある100万円はすぐにそして確実に使えますが、将来の100万円は現在すぐにそして確実に使うことはできません。つまり将来の不確実な100万円よりも現在の確実な100万円のほうが価値は高いはずなのです。 それでは、将来の100万円が現在どれくらいの価値をもっているかをどのように計算したらいいでしょうか?次の事例を通して検討しましょう。 今、1年満期・金利1%の無リスク債券に100万円を投資したと考えましょう。あなたは1年後に101万円をえられるはずです。 次に、リスクのあるエマージングマーケットの1年満期・金利10%の債券に投資したとしましょう。あなたは不確実ではありますが1年後に110万円をえられるはずです。 上の2つの事例から何が分かるでしょうか?リスクの高い債券のほうが見返りとしてのリターンである金利が高いことが分かります。そして、最初の例では市場は現在の100万円と将来の101万円が等価であるような金利を提示しているということがいえます。それはつまり、将来の101万円を1%で割り戻せば100万円になるということであり、この過程を経て算出された100万円のことを将来の101万円の現在割引価値と呼びます。そして、ここで割戻しに利用した1%のことを割引率とかディスカウントファクターと呼んでいます。 同様のことはもちろん不確実なエマージングマーケットへの投資にもいえます。 ここで重要なことは、不確実性の高い投資ほど割引率が高いということです。リスクの高いキャッシュフローほど高い割引率で割り戻さなければいけないということです。ですから、不確実性の高い投資を行った際の将来想定されるキャッシュフローを無リスク金利で割り戻してしまったら、割引現在価値を過大評価してしまうことになり、投資判断を誤らせてしまうことでしょう。投資の際は、不確実性の高さにフィットした割引率を設定することがとても重要なのです。 参考文献 リチャード・ブリリー、スチュワート・マイヤーズ他「コーポレートファイナンス 第8版」日経BP社(2007) ※この記事は、旧LIPブログから引き継いだ記事で、書かれている内容は必ずしも最新の状況を反映しておりません