~プチ漫画付きで魅力を語ります~ マイクロファイナンスフォーラム2015へようこそ!

―登場人物紹介― <左>ニシダ:調査チームのリーダーで、フォーラムの裏ボス的存在。本業ではシンクタンクに勤務し、データー分析の日々。Fintechにも造詣が深い。 <中>ナガシマ:公認会計士・ConnectAsia株式会社代表取締役社長。マイクロファイナンスの現場を走り回る熱い男。フォーラムにゲストとして参加予定。 <右>キョウ:広報チームの新米。その仕事の速さとバイタリティ、そして声の大きさで早くも一目置かれる存在に。フォーラムは初参加。   マイクロファイナンスフォーラム開催まで、いよいよ1カ月を切りました! 今年のテーマは「Microfinance×Fintech」。大充実の内容にするべく、メンバーは一丸となって準備を進めていますが、「Fintechって何?今回のトピックは難しくない?」という声がちらほら。 そこで、ここでは広報チームの新米キョウが、フォーラムのゲストであるナガシマ氏と調査チーム隊長ニシダと共に、見どころを分かりやすくお伝えします。   Fintechはなぜここまでバズっているか? ―満月の夜、都内の某チャンコ鍋屋にて。 キョウ:私はマイクロファイナスフォーラムに初参加なので、今からワクワクしています!Fintechっていうのも、なんだかイケてる響きですよね。でも実は、意味がいまいちよくつかめていなくって…。教えてください、ニシダさん! ニシダ:Fintechとは、FinanceとTechnologyを合わせた造語というのは知っている? キョウ:はい!というかさっきググりました! でもそれって目新しいことですか? 世の中のシステムが、アナログからデジタル化されるのってごく普通のことですよね。なんで今、新しい言葉まで作って騒がれているのでしょう? ニシダ:ディスラプタートシテ、キンユウギョウカイデキョウイダカラ。 キョウ:!!??今の何語ですか? ニシダ:ごめんごめん、つい専門用語が…。ディスラプターとは、テクノロジーを利用して既存の市場を切り開く企業のこと。 キョウ:なるほど。身近な例だと、配車サービスのUberとか?スマホで簡単にタクシーが呼べるという便利さで、特に欧米ではタクシー業界の脅威になっていますよね。 ニシダ:その通り! Fintechで代表的なものには決済・C2C送金のPaypal、LINE Payなどがあるけれど、それらも金融業界の脅威。つまり金融の仕事を奪ってしまうのではないか、と思われているわけです。 一方で、もちろんテクノロジーによって金融サービスが効率化する面もある。オンラインで24時間365日預金や振り込みができるのは、テクノロジーの恩恵だよね。つまり、テクノロジーの介入は金融にとって脅威でもチャンスでもある。で、今は脅威かチャンスかどっちに出るかをみなで睨んでいる時期であって、Fintechという言葉がバズっているわけ。 キョウ:なるほどー。まさに今が、FinanceがTechnologyを食うか食われるかの勝負時なんですね! (ニシダさん、必要以上に輝いて見える…もしや、Fintechにはカッコ良く見せ効果もあり…!?) 開発途上国におけるFintech ―スペシャルゲスト、ナガシマ氏がスリランカから到着。 ナガシマ:まぁ、食うか食われるかっていうか、仲良くするのが理想だけどね。 ニシダ:その声は、ナガシマさん! キョウ:初めまして!今回のフォーラムでの発表、楽しみにしています。ナガシマさんは、途上国で金融分野のICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)に携わっているんですよね? ナガシマ:そうだよ。今は主にミャンマー、カンボジア、スリランカで活動しています。日本と海外を行ったり来たりで忙しいけれど、特に途上国のことは現場に行かないと分からないことが多いからね。 ニシダ:そ、そう言われると、主にデスクで作業をしている僕は耳が痛いな…。 キョウ:ニシダさんは、ウォッシュレットがないところでは生きていけないですもんね!! ニシダ:それは余計だし声が相変わらず大きいよ!(気を取り直して)ナガシマさんには、ぜひフォーラムでマイクロファイナンスにおけるFintechの実例について話していただきたいと思います。 キョウ:開発途上国でも、Fintechは熱いんですか? ナガシマ:そうだね。先進国と同様に、Fintechによるサービスの効率化や生産性アップが期待されている。一方で、インフラが整っていなくてデータベース化が上手くいかなかったり、IT格差でサービスが公平に普及しないことを危惧する声があったりと、課題も多い。 キョウ:個人的には、どんどんIT化を進めることには疑問を感じます。この間、ベトナムでマイクロファイナンスのセンターミーティングを視察する機会がありました。マイクロファイナンス機関の顧客が集まって手渡しでお金を返すわけですが、情報交換をしたり歌を歌ったり職業訓練をしたりと、地域の憩いの時間のような印象を受けました。IT化が進むと、ああいうものもなくなってしまうのかな…と。 ナガシマ:良い目のつけどころだね!僕も、どこまでIT化すればいいのか、模索しているところではある。アジアとアフリカなど、場所に寄って状況は異なるし、それに、現場レベルではいろいろ大変なこともあって、例えば… ニシダ:ああっ、ナガシマさん、その辺でストップ!詳細はフォーラムにとっておいてください。これ、フォーラムに人を呼ぶための対談ですから。 ナガシマ:すまん、悪かった!でも最初に言った通り、FinanceとTechnology、MicrofinanceとTechnologyがどうすれば上手くかみ合うのか。そして、結果として世界の貧困削減につながるのか。ヒントが得られるような、フォーラムになればいいと思います。 ニシダ&キョウ:今年も、マイクロファイナンスの新地平を開きましょう! THE END

ベトナムスタディツアー(2015.9)レポート

Living in Peace(LIP)では、企画したファンドの投資家の方々やマイクロファイナンスに興味のある方々にマイクロファイナンスの現場を見て感じていただくため、スタディツアーを企画・実施しています。 今回は2015年9月のシルバーウィークに実施したツアーの様子をレポートします。もし「LIPメンバーと行くマイクロファイナンスの現場」に少しでもご興味をもっていただけましたら、是非、次回のツアーへの参加をご検討ください。 【ツアーの概要】 2015/9/19〜2015/9/23 1日目 日本から移動 2日目 ハノイ市内観光 3日目 TYM訪問(本社訪問) 4日目 センターミーティングと顧客宅の訪問(郊外のPhu Bing地区)。夜、日本へ出発 5日目 帰国 【ツアーレポート】 今回のベトナムスタディーツアーは、2015年9月19日(土)〜9月23日(水)のシルバーウィークを利用して、5日間と4日間の2つコースで開催されました。 ツアーの訪問先は、LIPが企画しているファンドの投資先で、ベトナム ハノイにあるマイクロファイナンス機関TYM。 シルバーウィークということもあり、例年よりも参加者が多く、北は北海道、南は福岡と全国各地から総勢25名もの方々にご参加いただいて、とても賑やかなツアーとなりました。 (今回は航空券のキャンセル待ちで、惜しくも参加を断念された方もいらっしゃるほど多くの方々にお申込みをいただき、LIP広報担当としては感謝の気持ちでいっぱいです。ご参加いただけなかった方は、ぜひ次回お待ちしております!) ー1日目ー いざ、ベトナムへ! 2015年9月19日(土)午前7:00 5日間コースの東京組は、成田国際空港に集合し、ベトナム ハノイに向けて出発。 約5時間の空の旅を経て、ハノイのノイバイ国際空港に到着。 お天気は、私たちの到着を祝福するかのような快晴でした! 空港では、現地HISガイドさんがお出迎えしてくれて、そのままホテルへ。 ホテルへ向かう途中、「バイク天国」と呼ばれるベトナムならではの光景を見ることができました。 ちなみに、行き交うバイクのメーカーを見ていると、ホンダが多かったです(いち早くベトナムのバイク市場に参入しただけありますね) 車にゆられて30分もしないうちに、ホテルに到着。 今回のツアーは、ハノイの中心地から少し北に位置している、HERITAGE HOTELに宿泊。 その後、参加者のほとんどはHISのオプショナルツアー「水上人形劇鑑賞とディナー」に参加しました。 LIPメンバーは翌日の勉強会に備えて準備・リハーサルを夜までしていました。 (ホテルの外観、入り口にあるレストランはハノイで人気のお店とのことで賑わっていました)     ー2日目ー ハノイ市内観光 午前8:00 ホテルの1階レストランで朝食。 (メニューはベトナム名物のフォー、味付けはあっさりしていて、お好みでナンプラーなどの香辛料をトッピングできます)   朝食を食べたら、バスに乗って市内観光へ。 午前中は「タンロン遺跡」「文廟」 午後は「旧市街」や「ハノイ大聖堂」を見学しました。   (旧市街はかなり混んでいて、バイクにひかれそうになったりと、やや歩くのはハードでしたが、みなさん市内散策を楽しんでいました)   観光が終わった後、ホテルの近くにあるレストランで夕食。 食事をしながら、翌日のTYM訪問に向けて、マイクロファイナンスについて予習を行ったり、参加者やLIPメンバーが互いにツアーへ参加した目的や想いを共有し合いました。   ー3日目ー TYM訪問 2日目の夜に4日間コース組も現地入りし、3日目はツアー参加者が全員そろって、いよいよマイクロファイナンス機関TYMへ訪問します。 TYM本部はハノイの中心地にあり、ホテルから車で15分~20分ほどの距離。 到着後、TYM本部の隣ビルのエントランスに入ってしまうという、ちょっとしたハプニングもありましたが、なんとか時間通りに間に合いました。 午前中は、TYMの概況やマイクロファイナンスの現状について説明を受け、グループごとに分かれてディスカッションや質疑応答を行いました。 「TYMの今後の経営方針を知りたい」「貧困の定義とは?」「ソーシャルパフォーマンスについてどのように考えているのか」など各々の問題意識から、参加者一人ひとりが積極的にTYMスタッフへ質問を投げかけていた様子がとても印象的でした。   (TYMの概況について説明を受けているところ。みなさん真剣にメモを取っていました) 午後は、TYMで働いているスタッフのインタビューとオフィス見学。 インタビューでは「(TYMの)顧客と接していく中で仕事のやりがいを感じた、価値ある仕事ができている」というスタッフの熱い想いを聞いて、参加者もLIPメンバーも心を動かされるものがあり、スタッフとの交流はとても有意義なものとなりました。 3日目は、朝早くから夕方までみっちり研修!というようなスケジュールだったので、参加者の方々がぐったりしてしまうのではないかと心配していたのですが、その必要はなかったようで、夕食の時間もテーブルの至る所で、マイクロファイナンスや貧困について延々と熱い議論が繰り広げられていました。   ー4日目ー センターミーティングと顧客宅の訪問 4日目は今回のツアーのメインどころ、センターミーティングと顧客宅の訪問! 午前7:30、眠い目をこすりながらギリギリ集合時間に間に合った私とは裏腹に、参加者のみなさんはとても心待ちにしていたようで、朝から張り切ってバスに乗り込んでいました。 センターミーティングが開催される目的地のPhu Bing地区までは、約2時間の道のり。 30分ほど車を走らせ、中心地から郊外に出ると、道路沿いには古い質素な建物が並び、中心地とはまったく異なった風景が目に飛び込んできました。 (行く途中、前日のスコールで道が浸水している場所があり、車のタイヤの上まで水が…!バスの中では、ここぞ!とばかりにカメラを構える参加者やLIPメンバーたちがカメラを構えて)   Phu Bing地区に到着すると、目的地であるセンターミティングの場所までは車で入れないため、30分ほど歩いて向かいます。 道がかなりぬかるんでいて、とても歩きづらく、参加者の中には体調が悪くなってしまう方もいて、この時、”スタディツアーならではのハードさ”を実感しました。 センターミーティングの場所に到着すると、既に30人ほどの顧客たちが待っていて、私たちを歓迎してくれました。 センターミーティングでは、実際に顧客が返済をしている場面や、TYMのスタッフが貯蓄や保険に関する説明をしている場面を垣間見ることができ、私自身、マイクロファイナンスの現場に立ち会えたことに意義深さを感じました。 顧客たちへの質問の中で、TYMを利用し始めたきっかけは”知り合いの紹介”が多いことがわかり、顧客の中にはTYMを利用するために、この地域に引っ越しをしてきたという方もいました。 また、TYMでは顧客を増やすために、定期的に紹介キャンペーンを実施しており、紹介してくれた人には御礼にプレゼントを渡すという取り組みも行っているとのことでした。 ※センターミーティングとは、TYMの顧客たちが週に1回集まって、借りたお金の返済や貯蓄などを行うミーティングを指します (顧客宅で昼食をご馳走になり、揚げ生春巻きが絶品でした!) 昼食後は、TYMを利用して経営を行っている顧客宅を2件訪問。 1件目は事業がなかなかうまくいかず、立て直しが必要な顧客宅、2件目は事業を成功して貧困から抜け出せた顧客宅を訪問しました。 事業を成功させた顧客は、家畜事業(豚や鶏など)からスモールスタートして、現在では修理事業や飲食事業など次々と新たなビジネスに着手しているとのことでした。広くきれいな一軒家に住んでいました。 「貧しいときは子供を学校に行かせることができず、不安な日々を送っていた。でも今は、お金を貯めることができるようになって、昔のような不安はなくなった。」 そんな言葉から、マイクロファイナンスがきっかけで、この顧客は事業を始めるチャンスを得ることができ、顧客自身の努力の結果として生活を改善することができたのだと、再認識しました。 一方で、もちろんマイクロファイナンスを利用しても、事業がうまくいかず、貧困から抜け出せない人たちもたくさんいます。 しかし、結果が伴わなかったとしても、マイクロファイナンスを通して金融商品にアクセスすることで、少なくとも彼らは貧困から抜け出すためのチャンスを得ることはできたのではないか、と思います。 「貧困削減を促進させるために、そのチャンスをいかに成功へ導いていけるか、マイクロファイナンス機関による顧客の事業支援の強化に今後期待したいですね」 顧客宅までのぬかるんだ道を一緒に歩いた参加者の一言が、今でも印象深く心に残っています。   LIPのスタディツアーは、「投資先の顔が見える」がテーマで、「ありのまま」のマイクロファイナンスを見にいくことを大切にしています。 今回のベトナムスタディツアーに参加いただいた方々に「ありのまま」を見ていただいて、少しでも何か得るものがあれば、企画スタッフ一同これ以上嬉しいことはありません。 (広報グループ 龔 軼群)

新年のご挨拶

新年初のご挨拶を差し上げます。昨年は、Living in Peaceを様々な面でご支援くださり、誠に有難うございました。 2015年は、外側だけを見ると静かな一年だったように思います。新規のマイクロファイナンスファンドを企画することもなく(昨年末に企画したものが8月に販売完了しましたが)、対外的なイベントとしては、定期的に実施しているマイクロファイナンス・スタディツアー 、メンバーの専門性を活かした会計講座、フィンテックと途上国支援をテーマにしたマイクロファイナンス・フォーラムを開催したのみとなりました。 新規のファンドの企画をひとつも行わなかったのには様々な理由がありますが、一番の理由は、調査の結果投資を見送らざるを得なかった案件がいくつかあったことです。そのうちの一つは、世界的にも名の知られているマイクロファイナンス機関らが株主となっており有望と言われたマイクロファイナンス機関でしたが、私たちがファンド企画を見送った後に内部の問題が発覚し、今は大変な状況になっているようです。 その意味では、私たちのマイクロファイナンス機関の調査能力がある程度の水準になったことを実感することができる一年でした。既存ファンドの投資先であるマイクロファイナンス機関のモニタリングも毎月高い精度で行っており、結果として、2015年も大過なくファンドからの資金を保全することができました。また、社会的インパクト測定関係のスタディもある程度終え、調査やモニタリングにも役立てています。 一方で、今後も様々なファンドを企画していくためには、自分たちのネットワークをさらに大きなものにしていく必要性を感じました。いままでは、アジアの一部の地域の一部のマイクロファイナンス機関からのみ知られる存在でしたが、2016年は積極的に海外に出ていき、Living in Peaceとしてのネットワークを広げ、より世界中で認知される存在になっていきたいと考えています。 また、2016年においてはマイクロファイナンスに限らず、様々な形態でのインパクト投資に取り組んでいきたいと考えています。具体的なアイデアはまだお伝えできませんが、年内に何らかの新しい報告ができるように努めます。 私たちが日本初となるマイクロファイナンス投資ファンドを企画してからもう6年が経ちます。そのような事業を行う日本唯一の認定NPO法人として、今後とも進化を続けて参りますので、引き続き、ご支援をどうぞ宜しくお願い致します。   慎泰俊 認定NPO法人 Living in Peace 理事長   (近づきすぎたら怒られました。何事も間合いが重要ですね)

LIP勉強会レポート-CGAPが提唱するマイクロファイナンスの基本方針

(UN Photo/ Shareef Sarhan) 【LIP勉強会レポート-CGAPが提唱するマイクロファイナンスの基本方針】 LIPでは毎週土曜日にミーティングを行っており、マイクロファイナンスをテーマに勉強会をすることがあります。12/6(土)にはバングラデシュのBRAC大学の研修に参加したメンバーが、そこで学んだマイクロファイナンスの基本方針を紹介してくれました。この方針は貧困層支援協議グループ(CGAP)及び31の援助機関により作り上げられ、2004年のG8サミットでも取り上げられたものです。私達の勉強会の一部として、その基本方針を以下に紹介致します。 ************************************************************** 【マイクロファイナンスの基本方針】 貧困層が求める金融サービスはローンだけではない 世の中の全ての人々同様、貧しい人々も便利で、柔軟で、リーズナブルな、幅広い金融サービスを必要としています。置かれている環境によって、彼らはローンだけではなく、貯金、送金、保険なども必要とします。 マイクロファイナンスは貧困対策の強力なツールとなる サステイナブルな金融サービスへのアクセスは、貧しい人々に所得増加や資産の貯蓄、外部からのショックに対する脆弱性軽減といった恩恵を与えます。マイクロファイナンスは将来に備えた計画設計、栄養への投資、生活環境改善、子供の健康や教育の向上などを通して、貧しい家庭に日々の貧窮から脱却する「きっかけ」となり得ます。 マイクロファイナンスとは、貧しい人々のための金融システム構築である 途上国では、今でも貧困下に暮らす人が多数を占めています。そのような人々の多くは、基本的な金融サービスにアクセスすることすらできません。多くの国では、マイクロファイナンスはドナーや政府、社会的責任のある投資家が関心を寄せる、やや特殊であまり主流ではない金融機関という見方がまだ根強くあります。しかしマイクロファイナンスが、そのポテンシャルを最大限に活かして貧困層にサービスを普及させるために、金融セクターの中心的役割となる必要があります。 マイクロファイナンス機関の財政的健全性の必要性 貧困層の殆どに金融サービスが行き届いていない理由として、貧困層と金融サービスを繋ぐ、財政的に強固な金融仲介業者が足りていないことがあります。財政的にサステイナブルな金融機関の設立は、設立自体がゴールではありません。多くの人々にサービスを届けたり、援助資金から想定される効果を遥かに超えたインパクトを与えたりするための唯一の手段です。ここでのサステイナビリティとは、マイクロファイナンス提供側が全てのコストをカバーし得る能力を指しており、それを達成してこそ継続的な運営や、現在行っている貧しい人々への金融サービス提供が可能になります。財政的サステイナビリティの実現には、取引コストの削減、顧客ニーズに合ったより良い商品・サービスの提供、金融アクセスのない貧困層にリーチする新たな方法の探求が求められます。 マイクロファイナンスは長期に存続する地域金融システムの構築に繋がる 貧困層への金融システム構築—それは貧しい人々に、永続的な金融サービスを提供できる、健全な国内金融機関を作り上げることです。そのような機関には国内市場における貯蓄の活性化、ローンサービスの拡充など、幅広いサービス提供が可能であることが望まれます。そして、地域金融機関や民間の資本市場が成熟すれば、これまでの援助頼みの体質から徐々に脱却できるでしょう。 マイクロクレジットは常に“最善”ではない 全ての人にとって、全ての状況において、マイクロクレジットが適切な手段とは限りません。例えば返済手段がないほど貧しい人にとっては、食糧支援などの方が有効という場合もあります。寄付金、インフラ改善、雇用創出や職業訓練などの他の金融以外のサービスの方が、貧困削減に適している可能性もあります。しかしこのような金融以外の貧困削減手法は、可能な限り財産貯蓄と併用することで、より効力を発揮すると考えられます。 上限金利は貧困層の金融サービス利用に対する障害物となりうる 金融機関にとって、少数の高額ローンよりも多数の少額ローンを提供する方が大幅なコストがかかります。マイクロファイナンス機関は、平均的水準よりもある程度高い貸出金利を請求しなければ、コストをカバーすることができず、企業成長どころか存続も危うくなってしまいます。政府が貸出金利の上限を制限する場合、金融機関のコストに見合わない程の低いレベルに金利を抑えてしまいます。一方で、マイクロファイナンス機関は非効率な運営から生じるコストを、金利や別費用として顧客に転嫁するべきではなく、運営の効率化に重点を置くべきです。 政府は実現の後押し役であり、金融サービスの直接の提供者ではない 政府は貧困層の貯蓄を守り、金融サービス発展のための政策を整える、という重要な役割を担っています。マイクロファイナンスの発展に政府が貢献できる重要なこととして、経済安定化、上限金利を設けないこと、高い延滞利息付きローンに伴う金融市場の歪みを回避することがあります。他にも起業家のためのビジネス環境改善や汚職の取り締まり、市場へのアクセス改善といったことも、貧しい人々への金融サービス提供を後押しするでしょう。特別なケースとして、健全で独立したマイクロファイナンス機関が資金不足に陥っている場合には、政府からの財政支援も効果的かもしれません。 ドナーからの補助金は、民間資金と競合するのではなく、補完し合うべき ドナーは適切な補助金、ローンや株式を用いて、金融業界の制度能力向上や、金融サービス支援のためのインフラ(格付会社、信用調査機関、会計機関など)の発展、試験的なサービスや商品へのサポートに寄与すべきです。また、長期にわたる寄付金は、サービスが行き届かない人々にリーチするために必要な場合もあります。それを効果的に行うには、ドナーからの補助金は、貧困層のための金融サービスを地方金融マーケットの枠組みに組み込むために活用されなくてはいけません。具体的には、専門家を採用してプロジェクトの設計と遂行に活かすこと、金融機関に対して継続的に支援を行う条件を提示すること、最初から支援終了時を見据えておくことが重要です。 組織的、人的キャパシティの不足が大きな障害に マイクロファイナンスは、銀行サービスと、社会的目標及び(金融機関から始まり、規制機関、監督機関、情報システムを通じ、政府系開発団体や援助機関まで様々なレベルにおいて生じる)十分なキャパシティのニーズが組み合わされた特別な仕組みです。マイクロファイナンスセクターへの官民双方の投資は、このキャパシティビルディングに注力する必要があります。 金融及び社会面双方の透明性確保が重要 貧しい人々にサービスを提供する金融機関の、財務及び社会的パフォーマンスの情報は、正確であり、且つ誇張や歪曲されておらず、比較可能なものであることが非常に重要です。監督機関、規制機関、ドナーや投資家だけでなく、借り手である貧困層自身が適切にリスク・リターンを評価できるよう、それらを兼ね備えた情報を必要としています。 ******************************************************************** 世の中には、未だに金融サービスを受けられていない人は多く存在します。世界の成人人口の50%(約25億人)が正規な銀行の口座を保有していません。「世界金融開発報告書2014年版:金融サービスへのアクセス」では、金融サービスへのアクセス向上において、政府や市場の責任が改めて挙げられています。全ての人々に、サステイナブルな金融サービスを提供するためには、各ステークホルダーが自身の役割を認知し、責任を果たす必要があります。 今回の勉強会は、マイクロファイナンスの原点に立ち返って、私たちのやるべきことを冷静に見つめ直す貴重な機会となりました。来年もLiving in Peaceマイクロファイナンスプロジェクトでは、貧困削減に向けて真摯に活動して参ります。 それでは皆様よい年末年始をお過ごしください。 Living in Peaceマイクロファイナンスプロジェクト 【参照】 CGAP. (2004) “KEY PRINCIPLES OF MICROFINANCE”, https://www.cgap.org/sites/default/files/CGAP-Consensus-Guidelines-Key-Principles-of-Microfinance-Jan-2004.pdf CGAP. (2006) “Access for All: Building Inclusive Financial Systems”, https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/6973/350310REV0Access0for0All01OFFICIAL0USE1.pdf?sequence=1 IBRD/The World Bank. (2014) “2014 Global Financial Development Report: Financial Inclusion”, World Bank Publications, Washington DC.

ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク

Source: http://www.cgap.org/blog/six-dos-now-responsible-investors Photo Credit: Gayanath Wimaladasa   ソーシャル・パフォーマンス評価のフレームワーク  ―「11の指標」と「国際基準」―   1. ソーシャル・パフォーマンス評価の重要性 マイクロファイナンスのサービスを行うマイクロファイナンス機関(以下、MFIと表記)は、2012年末時点で世界に約3,700存在し、その顧客数は2億人を超えると報告されており、マイクロファイナンスの市場規模は拡大を続けています(注1)。このように多くのMFIが存在する中で、果たしてどういったMFIが良いMFI、悪いMFIといえるのでしょうか。MFIを評価する基準にはどんなものがあるでしょうか。 投資家が株式や社債に投資するとき、通常は投資する企業の財務業績を元に投資先の良し悪しを判断して、投資の意思決定をします。MFIについても、財務業績を評価することは事業の継続性・将来性等の観点からもちろん重要なのですが、財務指標の良好なMFIが貧困削減に貢献しているかというと必ずしもそうとはいえません。2010年にはインド最大のMFIであるSKSマイクロファイナンスがIPOで3.54億ドルという多額の調達に成功しましたが、その2ヶ月後にアンドラ・プラデシュ州政府から農民数十人の自殺がSKSの強引な取り立てを原因とするものだという主張がなされたこともあり(注2)、MFIの商業化が大きく問題視されるようになりました。本来の目的である貧困層・低所得者層の支援という視点が希薄化して、顧客の財務状況を考慮しない融資の返済プラン等を作成し、結果として返済が滞ると過剰な取り立てを行うようなMFIも中には存在することが明らかになってきたのです(注3)。 こうしたMFIのミッション・ドリフト(過度の商業化により貧困削減というマイクロファイナンス本来のミッションから逸脱していること)が表面化する事態を受けて、マイクロファイナンス関係者の中では、ファイナンシャル・パフォーマンスに加えて、ソーシャル・パフォーマンス(社会的業績)を評価・測定することの重要性が広く認識されています(注4)。MFI専門の格付機関のみならず、大手格付機関までもが、それぞれ独自のフレームワークを使って、MFIのソーシャル・パフォーマンスを評価しています(注5)。 今回はソーシャル・パフォーマンスを評価するフレームワークのうち、代表的な2つのツールを紹介します。まず1つは、MIXとソーシャル・パフォーマンスタスクフォース(the Social Performance Task Force/以下、SPTFと表記)によって開発された11のソーシャル・パフォーマンス指標です(注6)。もう1つは、同じくSPTFによるソーシャル・パフォーマンス管理(以下、SPMと表記)の国際基準(the Universal Standards for Social Performance Management/以下、USSPMと表記)です(注7)。これらのツールを具体的にみることで、ソーシャル・パフォーマンスを評価するとは一体どういうことなのか、理解ができると考えます。 2. 11のソーシャル・パフォーマンス指標 2011年MIXとSPTFは、MFIのソーシャル・パフォーマンスを測定するための11の指標を開発しました。 各指標の説明は以下の通りです。 1.ミッションと社会的目標 (MFIが定めている社会的ミッション、ターゲット、達成目標) 2.ガバナンス (SPMの研修を受けている役員数や、ソーシャル・パフォーマンスをモニタリングする正式な委員会の有無) 3.商品・サービスの範囲 (金融商品から非金融商品まで、MFIが提供している商品・サービスの範囲) 4.顧客に対する社会的責任 (MFIが適用しているSmart Campaignの顧客保護原則(注8)の数) 5.顧客に対するサービスにかかるコストの透明性 (MFIによる適用金利の説明方法) 6.人的資源と従業員のインセンティブ (MFIの従業員に関するポリシー) 7.環境に対する社会的責任 (貸付先企業が環境に与えている影響度を評価する仕組みの有無) 8.貧困層へのアウトリーチ(注9) (貸付前の顧客の貧困水準と、貸付後の水準に変化があったか) 9.貸出方法による顧客へのアウトリーチ (顧客に合わせた貸付方法で、より多くの顧客にサービスを提供できたか) 10. 貸付した企業と雇用機会創出 (貸付先企業の数、及び貸付先企業によって生み出された雇用) 11. 顧客定着率 (MFIの顧客定着率) 11の指標を見るとMFIの経営実績・財務的健全性には直接的に繋がりにくい印象を受けますが、MFIがSPMの部署を置いているか、顧客保護をどれだけ順守しているか等、MFIが本来のミッションに基づいた事業を行っているかを見る上で有効な指標が並んでいます。MIXは世界中の各MFI別に上記の指標のデータを公開しており、投資家を始めとする業界関係者がソーシャル・パフォーマンスのデータを収集・比較分析するためのプラットフォームとなっています。これらの指標が充実するほど、貧困削減に貢献しているMFIを容易に特定できるようになります。 3. SPTFの「国際基準」 最近ではソーシャル・パフォーマンス評価の手法を統一しようという動きがマイクロファイナンス関係者の中で起こっていますが、その大きな動きの1つとして、2012年6月SPTFはSPMの国際基準(the Universal Standards for Social Performance Management)を発表しました。 (出典:the Social Performance Task Force) USSPMはMFIが実践すべきことを6つの領域に列挙します。 社会的目標を定義し、モニタリングすること 経営陣や従業員が社会的目標の達成についてコミットメントをするこ 責任ある顧客管理をすること 商品、サービス、提供方法やチャネルを、顧客の必要性と選好に合わせること 責任ある従業員管理をすること ファイナンシャル・パフォーマンスとソーシャル・パフォーマンスを両立させること USSPMの特徴はその作成経緯です。世界中のMFI、投資家、MFI評価機関、その他利害関係者が長期に渡って統一的な基準を作るために議論を続け、互いのニーズを明確にした結果として、USSPMは作成されました。そのためUSSPMには、各関係者が実践したベストプラクティスが体系的にまとめられています。上記6つの基準だけではやや抽象的な説明なので、MFIがミッションを達成するために具体的に何をすべきだと書かれているのか、もう一歩掘り下げて見てみましょう。 例えば、第1の基準「社会的目標を定義し、モニタリングすること」は、大きく1Aと1Bに分解されています。 1A: MFIが社会的目標を達成するための戦略をもっていること 1B: MFIが社会的目標の達成度をモニタリングするために、正確な顧客別データを管理・公開していること そのうち1Aの基準を達成するためのベストプラクティスは6点挙げられています。 ①ターゲットとする顧客の金融へのアクセスを増加させ、利益をもたらすというミッションがMFIの戦略に言及されていること ②MFIの戦略がターゲットとする顧客の具体的な特徴を定義していること ③MFIの戦略が社会的目標を定義していること ④MFIが顧客の貧困水準を測定できるターゲットを定義していること ⑤MFIの戦略が社会的目標の達成に向けた進捗を測る指標を定義していること ⑥MFIの戦略が商品、サービス、提供方法やチャネルによってどのように社会的目標を達成するかを明示していること。 以上の通り、1つ1つの基準を細かく分解して、詳細な点まで言及されていることが分かります。USSPMの出発点は上記6つの領域ですが、関連するベストプラクティスの数は80以上にものぼります。これらの詳細について興味のある方は実践ガイドを参照下さい(注10)。 4. 今後の期待 今回紹介した指標・基準を見ることで、ソーシャル・パフォーマンスを評価するということが具体的にどういうことか、イメージを掴めたのではないでしょうか。これらのフレームワークが普及することで、ソーシャル・パフォーマンス評価に係るMFIのデータが整備され、各関係者がMFIのソーシャル・パフォーマンスに関して良質な情報を得られるようになり、マイクロファイナンス・セクター全体の取引コスト(情報取得コスト・審査コスト)の削減といった効果が期待されます。これらのフレームワークは、マイクロファイナンス業界にとっての重要なインフラとなりつつあるのです(注11)。 ただ忘れてならないことは、MFIの外部機関がこうした枠組みや基準を決めることがゴールではなく、より重要なことはMFIがそれらの基準を実践し、具体的に本来の貧困削減というミッションの達成に向けて行動を起こすことです。SPTFも基準を実践させることの重要性を認識しており、USSPMを発表した1年後の2013年6月、基準を実行させるために必要な10の教訓をまとめたうえで、情報共有しています(注12)。MFIの中でもSPMの体制を組織として位置づけているケースはまだ一部に限られており、MFIがこれらの基準を実践していくには時間がかかると思われます。 このようにソーシャル・パフォーマンス評価は本格始動したばかりですが、MFIを貧困削減という本来のミッションに立ち返らせるうえで重要な取組みです。MFIのソーシャル・パフォーマンス評価のあり方を考えることは、マイクロファイナンスを通じてどのように貧困削減や金融へのアクセス拡大を達成できるのか考えることに繋がります。Living in Peaceは、最新のソーシャル・パフォーマンス評価手法の調査を継続し、そのトレンドを発信していきたいと考えています。また貧困削減や貧困層への金融アクセス拡大というミッションに基づいたファンドを今後も企画していくために、ソーシャル・パフォーマンス評価を投資先MFIに対して実践し、机上の空論に終わらない、実務に則した評価手法を洗練させていきます。今回は代表的なソーシャル・パフォーマンス評価手法の簡単な紹介でしたが、フレームワークをMFIに実際に適用する上での課題等、より実務的な観点からのレポートを今後発信していければと思います。 LIPマイクロファイナンスフォーラム2014 ~収益性とソーシャルインパクトの両立に向けて~ はこちら   【参考文献】 (Edited) Joanna Ledgerwood. 2013. The New Microfinance Handbook–An Institutional […]

アイ・シー・ネット株式会社河原氏・粟野氏のマイクロファイナンス講義

LIPは日本でもトップクラスのマイクロファイナンス機関(以下、MFI)調査団体を目指すべく、MFIの調査手法の研究を続けています。 とはいえ、国内においてフルタイムで働いていることから、開発途上国に赴き現地の情報を収集することには限界があります。 8月28日(日)に、応援メッセージもいただいているICNETの粟野氏(マイクロファイナンス読本などの業績があります)及びご上司の河原氏をお招きし、マイクロファイナンス(以下、MF)業界との関わりやの調査手法など経験談を教えていただきました。両氏にはエキスパートとして、お忙しいところ我々の足りない部分を補ってくださったことに感謝申し上げます。 粟野氏は1995年からMFの研究調査に携わり、1999年からジンバブエでMFIの調査研究やコンサルティング業務を行ってきました。MFIを支援する政府機関で、MFIへの経営・融資・財務管理能力の指導や、MFIへの低利貸付制度の改善などに従事されました。 当時のジンバブエのMF業界は、成長発展の余地があるにも関わらず、次のような課題を抱えていました。政府機関は不良債権の回収、MFIは規模の拡大・組織力の向上・財務的な自立・高利貸しとの棲み分け、商業銀行のMF業界への参入は一行しかない、等です。インフレ率は既に上昇傾向であったものの、まだMF機関が収益をあげられる状況だったそうです。また、融資対象のMFIを選定するにあたってどのような基準でMFIを評価すべきか、という問題に直面されました。 CGAP(世界銀行の貧困削減に関する調査機関)のMFI評価のためのガイドライン(こちら)やPlanet Rating(MFIの格付機関)の格付けレポートを研究され、Governance(企業統治), Strategy(戦略), Management(経営管理), MIS(経営情報システム), Outreach(貧困削減の達成度), Profitability(収益性)など10項目からなるMFIの評価基準を策定されました。これにより、MFIの評価が数値として表され、複数のMFIの客観的な比較対象が容易になります。 Planet RatingではGIRAFEという評価体系に従い、企業統治、情報技術、リスク管理、営業実績、資金調達、経営効率性の6つの評価基準からMFIを格付けしています。(出典はこちら) 当時は今よりもインターネットが普及しておらず、マイクロファイナンス情報に対するアクセスもずっと悪かったはずです。それでもMFIの評価基準を作ってしまったという事実に、ロールモデルとして勇気をもらわないはずがありません。 河原氏も元銀行員で、南太平洋の金融機関で働かれた経験があり、当時のご経験を聞くことができました。これだけでも十分勉強になったのですが、興味深いのは発展途上国ゆえの事例が紹介されたことです。 ローンの償却に関すポリシーがあるのに償却された実績がない、MIS(経営情報システム、ローン情報を記録するシステムのこと)を評価しようとしたら記録も保存していなかったこと、思わず笑ってしまうような事例が次から次へと現れました。評価基準が上手く機能する例と、そうでない例を同時に学べる機会は貴重でした。 MF機関での不正とそれに対する取り組みの例や、その背景についても全員で議論しました。職員の給与の低さ、地方の支店では本店の管理が行き届きにくいから、内部及び外部の規制や監査がしっかりしていないから、など、そのインセンティブ構造も話し合いました。日本国内で財務諸表や書類などを見ているだけでは、まずわからないことだったため、有意義な議論となりました。 この勉強会はあっという間の2時間だったのですが、定例会議が始まるまでフリーディスカッションをしました。11月28日(土)に予定されているマイクロファイナンスフォーラム2010の報告について相談させていただきました。その中で興味深かったのが、『資金調達構造から見るMFIの規模及び寡占度』です。 LIP代表の慎が私の提言(こちら)で主張しているように、マイクロファイナンスファンドを組成するコスト(発展途上国に赴き、滞在し、現地調査をする費用)を考えると、どうしてもコストパフォーマンスの見合う規模の大きな投資に偏りやすくなります。 従って、ある国の大手MFIの海外資金調達は順調であり、そのシェアは圧倒的であると考えられます。一方で、中小のMFIは海外からの資金調達がより難しく、規模を拡大することが困難になるでしょう。結果的に、より営利性を追求できる大手MFIによって市場が寡占される一方で、貧困削減などソーシャルミッションを追求する中小のMFIといった棲み分け傾向があるのかもしれません。LIPが中小のMFIsを支援する根拠を客観的に示せないか、今後とも検討していきます。 粟野氏、河原氏の専門知識やご経験によって、LIPの能力が大きく強化され、メンバー一同刺激を頂いたことに感謝しております。 両氏はじめとする多くの方々のご支援のおかげで、今のLIPがあります。末筆乍ら、厚く御礼申し上げます。

女性の金融アクセスを広げた”ジェンダーパフォーマンス指標”

Source: http://www.cgap.org/blog/prove-it-measuring-gender-performance-microfinance Photo Credit: Supriya Biswas   女性の金融アクセスを広げた”ジェンダーパフォーマンス指標” 安倍首相が2013年9月26日の国連総会演説で語った「ウーマノミクス」。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にはこうある。(注1) “日本の女性という最も活用されていない資源をさらに開発するだけで、日本の国内総生産(GDP)は最大で15%も増加し得る”。 これは1999年、ゴールドマン・サックスのキャシー松井氏とその同僚たちにより発表された「ウーマノミクス」というレポートで最初に主張された 。(注2) 日本社会が抱える、人口減少、少子高齢化、財政赤字などといった問題を解決する施策として、まず「女性」という日本の隠れた資産を最大限に活用することが必要だと提唱した 。(注3) ウォール・ストリート・ジャーナルでアフリカの事例も取上げられているように、これは日本だけが該当することではない。女性の労働参加率の向上により世界中でどれだけ生活水準を良くできる可能性を秘めているか、もっと発信していくべきではないか。今回は、マイクロファイナンスという観点から、発展途上国において、女性の金融へのアクセス及び女性の労働参加を促進させる為の鍵となるであろう“ジェンダーパフォーマンス”について、Women’s World BankingのCEOであるMary Ellen Iskenderian氏によるCGAPのブログ記事(注4)を通して紹介する。 “Prove it: Measuring Gender Performance in Microfinance”(*和訳・注釈はLIP作成) “女性の起業家たちの金融サービスへのアクセスは、大きな障害に直面している。この弊害は、女性の仕事や家庭、コミュニティとの関わりにおいて負の影響を与えており、それゆえマイクロファイナンス業界は、女性たちがこれらの障害を乗り越える手助けをするというミッションのもと活動してきた。実際、MIX(Microfinance Information eXchange)(注5) のデータ分析により、多くのマイクロファイナンス機関が女性の顧客も対象としている(女性比率74%)と主張し、半数以上のマイクロファイナンス機関が女性のエンパワーメント(注6)、もしくはジェンダーの平等性を目標に掲げていることが分かった。しかし、ジェンダーと金融について更に意義のある議論を進めていくには、ここで主張する金融サービスへの取り組みやエンパワーメントについてもっと力を入れて取り組んでいかなくてはならない。 2011年、Women’s World Banking(以下、WWBと表記)はGender Performance Initiative(以下、GPIと表記)という指標を発表した。GPIは、女性の金融包摂(financial inclusion) (注7)の成果を示す為、マイクロファイナンス機関がどれだけ効果的に女性に金融サービスを提供しているかを評価するものである。そして最終的には女性が顧客や働き手となり、更に社会、及び経済変化を起こすようなビジネス・ケース例を構築していく為の指標だ。 これらを実現する為に、いわゆる“ジェンダーパフォーマンス”をはかる指標を開発。まず初めに、WWBの広範囲かつ定性的研究(extensive qualitative research)(注8)を踏まえた女性の借り手の評価、また彼女たちの生活水準に基づき、優先地域を明確化した。これらの優先地域は、女性たち特有の生活サイクルにおける需要や掲げている目標、またサービスの質や借り手を守ることに焦点を当てるといった、金融商品デザインやその多様性も考慮している。また我々はマイクロファイナンス機関のスタッフやマネジメントにも着目した。女性の借り手たちにとって最もふさわしいサービスを提供する為には、マイクロファイナンス機関そのものが女性役職員にとって最高の働き場所であるべきだからである。そして最後に、マイクロファイナンス機関のファイナンシャルパフォーマンス、女性役職員及びその家族に、彼女たちがどのように貢献し成果をもたらすのか理解を深めようと試みた。 我々のネットワークメンバーである3つの機関、ウガンダのFinance Trust、コロンビアのFundación delamujer、インドのUjjivan Financial Servicesと共に、この指標のフレームワークを試験的に実施。過去2年間、それぞれの機関における借り手のデータベースで広範囲な分析がなされた。また指標を集め、統計し、レポート化する実用性を判断する為、マイクロファイナンス機関のコアメンバーと調査面談を何度か行なった。 Finance Trustでは有効なデータを得られただけでなく、男性、女性の借り手それぞれの違いを示唆する情報を入手することができた。例えば、Finance Trustの女性の借り手のポートフォリオは、大きな商業ローン以外全てのローンサイズで、男性よりリスクが低いことが示された。一般的に女性は男性に比べて信用できる返済者と見なされるが、この仮説を検証するのは批判が多い。だが、各商品・各性別のポートフォリオ分析によって、Finance Trustはリスクを誘発しうる要因を理解することができたのだ。 Fundación delamujerは女性を対象に長年に渡り献身している機関であるが、(商務、リスク及びマーケティング部を含む)機関全般にわたってソーシャルパフォーマンス指標の重要さを再認識することとなった。例えば、農業ローンサービスの取り組みにおいて男性には31%、一方女性にはわずか12%の貸出しであることがGPIの試験的実施で判明した。後に原因を追究したところ、金融サービスのコンテンツが女性たちの需要に合っていなかったことが分かった。そこでFundación delamujerは開発を続け、多数国間投資基金(MIF)、ドイツ政府機関(BMZ)(注9)、Hivos Aid、及びIrish Aidの協力のもと、近年新たに、女性の借り手に焦点を当てた農村地域への金融サービスを全国に展開した。分析により、男女の借り手の定着率の違い(男性62%、女性68%)も明らかになった。これは女性の借り手は男性に比べ、より忠実であるという仮説を支持する根拠である。これらのデータにより、Fundación delamujerのようなマイクロファイナンス機関が、借り手の金融サービスに対する満足度を見極められるようになる。それだけでなく、女性を対象にした金融サービスのビジネス・ケースにも貢献できるのだ。 GPIの試験的実施により、借り手に最善の結果をもたらす為の社会的指標を追究し、分析する可能性を見出すこともできた。例えば、インドのUjjivanでは借り手の子どもたちの年齢、及び教育環境についてのデータを収集。9歳から15歳までの子どもを持つ27%の借り手が少なくとも1人の子どもを学校に通わせていた。これらのデータを長い期間をかけて集め、Ujjivanでは家族の幸福度をはかること、及び教育に関連する金融サービスを作ることが可能となった。 これらの検証結果から、WWBは“ジェンダーパフォーマンス”を調査し、改善していく総合的なツール(注10)を発表した。金融機関がこれらの指標を使い、分析することで、彼らがどれだけ女性により良い金融サービスを提供できているか、彼女たちがどのように金銭的な目標や社会的使命に献身しているかという理解を更に深めていってほしいと願う。 ジェンダーに関するデータは、今後更に現状を変化させる可能性を秘めている。まだ最初の一歩を踏み出したばかりだ。もし金融機関が女性へのサービス提供に本気で取り組むとすれば、それを成し遂げる為のデータを収集し分析し続けなければならない。そうなれば、女性の借り手にとって有意義なアウトリーチ、金融サービスの提供を実現することが可能だ。もっと言えば、所得の低い女性たちが直面する障壁についての理解を深め、金融サービスへのアクセスを更に良くしていくこともできる。“ジェンダーパフォーマンス”は、女性たちの生活の安定性と成功を導く鍵となっているのだ。” GPIにより各マイクロファイナンス機関が借り手のニーズを踏まえたサービスをより効率的に向上させ、マイクロファイナンスを利用したくても利用できなかった女性たちの為にその要因を分析し一つずつ解消していった。結果、彼女たちの金融アクセスは拡大し、彼女たちの家族の生活、所属コミュニティ、村、地域全体へと影響を与えていく。 私たちLIPマイクロファイナンス調査チームでも、貧困削減効果の指標や調査方法について研究し、マイクロファイナンス機関の独自のアセスメント手法を確立することを目指している。これにより、貧困削減に効果的なファンド企画をサポートすることが可能となる。LIPマイクロファイナンスプロジェクトは、「全ての人にチャンスを」という目標を掲げ活動をしているが、社会の不平等を全てなくすことができなくとも、こういった指標やツールの活用はより多くの人々が平等に金融サービスにアクセスできる大きな第一歩となり、貧困をゼロに近づけていけると信じている。 【注釈】 (1)ウォール・ストリート・ジャーナル 2013年9月26日『【寄稿】「ウーマノミクス」の力を解き放つ』 (2)http://www.goldmansachs.com/japan/ideas/demographic-change/womenomics-2011/ (3)The Japan Times for Women Vol.3 (4)CGAP“Prove it: Measuring Gender Performance in Microfinance” (5)http://www.mixmarket.org/ (6)①力をつけること。また、女性が力をつけ、連帯して行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えていこうとする考え方。②権限の委譲。(中略)開発援助において被援助国の自立を促進するために行われる。(三省堂「大辞林」) (7)金融包摂(financial inclusion)とは、「社会の幅広い層に対する金融サービスの提供」を指す。 参照:白川方明「アジアにおける金融:バンキング・ビジネスと資本市場―国際コンファレンス・前夜ディナーレセプション (日本証券業協会主催)における基調講演の邦訳―」 G20ソウル・サミット(2010年11月)の合意を受けて、金融包摂行動計画を具体的に実施する主体である、金融包摂のためのグローバル・パートナーシップ(GPFI)が立ち上げられている(2010年12月)。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/cannes2011/annex06_j.html (8)http://www.womensworldbanking.org/publications/research/ (9)http://www.bmz.de/en/ (10)http://www.womensworldbanking.org/wp-content/uploads/2013/09/Womens-World-Banking-Gender-Performance-Indicators.pdf  (米山倫代)  

CSR(企業の社会的責任)のような慈善的な動機で企業は儲けられるのか?

Craig Howell, DSC07004, Checking out the in-ride photos http://goo.gl/B0agbz   CSR(企業の社会的責任)のような慈善的な動機で企業は儲けられるのか?~Pay-What-You-Wantによる価格付けと慈善的な寄付による実験~ 日本経済新聞の人気コンテンツ『私の履歴書』で、2013年12月はマーケティングの大家である経営学者フィリップ・コトラーが取り上げられ、氏のCSRに対するモチベーションが紹介されていた。企業が社会に貢献すること自体を否定する人はあまりいないだろうが、ビジネスにおける社会貢献は、そういった社会性だけでなく、営利性も両立することが求められるだろう。 ビジネスにおいて、営利性と社会性は両立するのだろうか。その一つの答えとなり得る論文として、『ヤバい経済学』のサイトFreakonomics(注1) で、CSRに関するGneezy(2010) の『共有化された社会的責任:支払いたいだけ支払う方法と慈善的な寄付に関する野外実験』(注2)(以下、Science論文)が紹介されていた。この論文は、CSRのような社会貢献によって収益が生み出されるのかどうか、慈善的な動機が商品価値を持つのかを検証している。 本ブログでは、まずCSRに関する2つの考え方について触れた上で、Science論文に登場するPay-What-You-Want(「支払いたいだけ支払う方法」の意味。以下、PWYWと略記)について説明する。続いて、この論文の結果を要約して、CSRのような慈善的な動機で企業は儲けられるのかという問いに対する一つの可能性を紹介する。 コトラーとフリードマンのCSRに関する考え方 フィリップ・コトラーは昔からCSRに関心を持っており、日本経済新聞『私の履歴書』の中で次のように言及している(注3)。 『「マーケティングに携わる人間は自らの活動が世界の資源など社会に及ぼす影響についてもっと責任感を持つべきだ」と強く思った。こうした考えを深く発展させるために企業が社会に対してどのような活動をすべきか、企業の社会的責任(CSR)の研究に取りかかることにした。』 『企業は道路、港湾設備などをはじめとするインフラを利用して収益を上げ、社会から多大な恩恵を受けている。その見返りとして企業はなんらかの形で社会に奉仕すべきだと思っていたからだ。』 『私と同じ考えを持つ研究者も多く登場した。ステークホルダー(利害関係者)という言葉を広めたエドワード・フリーマンが提唱した道義的責任の思想だ。「この国はあまりにも物質主義と自己中心主義に偏り過ぎた。企業には魂が必要だ。」これこそCSRの本質を突いていた。』 その一方で、コトラー氏の恩師であり、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンは、CSRをコストのようにみなし、否定的な立場であった。 『企業による寄付行為の是非について、かねてことさら強く反対していたのは私のシカゴ大学時代の恩師でノーベル経済学者のミルトン・フリードマンだった。彼は「ルールの範囲内で自らの資源を活用し、利益拡大のための活動に従事することに尽きる。CSRに積極的な企業は、寄付行為をせずに研究開発など競争力強化に投資する企業に太刀打ちできなくなる」と主張した。』 コトラー氏とフリードマン氏のどちらが正しいのだろうか。その答えとなり得るScience論文を紹介する前に、まずはScience論文のキーワードPWYWについて整理しよう。 PWYWについて PWYWとは商品やサービスの値段を供給者が設定せずに、需要者である顧客が支払いたい価格で購入するシステムのことだ。通常、支払いたい価格には0円も含んでいる。日本ではまだ耳慣れない言葉だが、ストリートパフォーマンスや募金やチップなどの事例が挙げられる。 ビジネスシーンにおけるPWYWの事例として最も有名なものの一つが、レディオヘッドの 7枚目のアルバムin rainbowsである。Wikipedia(注4) によると、『ダウンロード販売はバンドの公表によれば平均約4ポンド(約1000円)で購入された』(注5)とのことである 。この予想外の成功によってフォロワーが現れ、 St. Louis and ChicagoのカフェではいくつかのメニューでPWYWを採用したそうだ。 PWYWでは実際に購入されるまで販売価格が決まらないため、企業として売上目標が立てにくく、消費者にとっても買い物が不便になる可能性がある。PWYWが成功する条件として、『スマート・プライシング 利益を生み出す新価格戦略』 (注6)の『第1章 「ペイ・アズ・ユー・ウィッシュ」方式の価格設定』にでは以下の5点が挙げられている。  生産コストの低い製品  公平感を持つ顧客  納得感のある幅広い価格帯  売り手と買い手の良い関係性  競争的な市場 ※ブログ執筆者翻訳 レコード市場が競争的かどうかの判断はともかく、CDそのものの原価は安く、ファンがアーティストをリスペクトしていれば、CD販売においてPWYWはうまくいくのかもしれない。 PWYW戦略と慈善的な寄付で儲かるのか? それでは本流に戻ろう。Science論文では、PWYW戦略と慈善的な寄付を組み合わせてより多くの収益を生み出すことができるのか、ディズニーリサーチとコラボして検証している。利用された商品は、アミューズメントパークでアトラクションを楽しんでいる間に撮影される次のような写真である。 イメージ画像の出典 http://bit.ly/Qx30TT   このような写真を利用し、寄付の有無とPWYW方式の効果について次の2つの仮説を検証するために(a)〜(d)4パターンの価格付けによって、どのパターンが最も高い売上を達成するのか分析した。 仮説1:慈善的な寄付で顧客はより多く支払うのか? (a) 【通常の販売方式】価格は12.95ドル、寄付なし (b) 【伝統的なCSR】価格は12.95ドル、支払額のうち50%を寄付 仮説2: PWYWで顧客はより多く支払うのか? © 【PWYW方式】価格はPWYW方式、寄付なし (d) 【新しいCSR、共有化された社会的責任】価格はPWYW方式、支払額のうち50%を寄付 これら4パターンの価格付けの意図を確認しよう。仮説1では、販売価格を定価12.95ドルに固定し、寄付の有無によって売上が増えるのかどうかを比較検証している。(a)は寄付のない通常の販売方式である。(b)は支払額のうち50%がユニセフや赤十字のような団体に寄付されるというオプションが付いている。仮説2では、寄付の有無だけでなく、PWYW方式によって顧客はより多く支払うようになるのかを検証している。©は寄付がなく、顧客が自由に支払額を決められるPWYW方式である。(d)はPWYW方式に(b)のような寄付オプションが付いている。Science論文では 固定価格で寄付オプションのある(b)を伝統的なCSRとし、(d)をShared Social Responsibility(「共有化された社会的責任」を意味。以下、SSRと表記)として新しいCSRと呼んでいる。 出典 Science論文 Figure 1, p.326 その結果がFigure 1にまとめられている。棒グラフは左から(a)〜 (d)それぞれの平均販売価格を示している。(d)のPWYW方式で寄付オプションあり(新しいCSR= SSR)が最も高い販売価格(0.198ドル )と なった。これは(b)の固定価格方式で寄付オプションあり(伝統的なCSR)の販売価格(0.071ドル )に比べ、統計的に有意な差になっている。従って、PWYW方式と寄付オプションを併用するSSRによって、企業は伝統的なCSRよりも多くの収益を生み出し得ることが示されている。 Gneezyらは、このPWYW戦略と慈善的な寄付を活用したマーケティングを「負け組が存在しないシナリオ 」として評価している。企業としてディズニーはより多くの売上を得られ、社会貢献のための寄付金が生み出され、顧客は寄付によって幸福度が増した。こういった負け組が存在しないシナリオ を描くことは、通常の経済学では珍しいからだ。 上述のScience論文は、慈善的な動機が商品価値を持ち、売上向上に貢献し得ることを示唆している。つまり、ビジネスにおいて、通常の商品よりも社会貢献や慈善的な要素を含む商品がより多く売れる可能性を示している。今後この知見をマーケティングに応用するならば、ミクロの個人レベルの分析によって、どのような属性(年収や家族構成など)を持つ人がそういった要素を高く評価するのかを明らかにすることが有用であろう。 LIPでは貧困削減というミッションのもと、発展途上国におけるマイクロファイナンスファンドの調査・企画に取り組んでいる。今回紹介したScience論文では、貧困削減に貢献するファンドの『貧困削減』という要素により、そのファンドの商品価値が増す可能性が示された。より多くの人にLIPの活動に共感してもらえるように、マイクロファイナンスの貧困削減効果の説明責任も果たしていきたい。 参考資料 Gneezy, A., U. Gneezy, LD Nelson and A. Brown (2010) Shared social responsibility: A field experiment in Pay-What-You-Want pricing and charitable giving, Science, 329, 5989, 325-327. Supporting […]

ローンだけじゃないマイクロファイナンス

ローンだけじゃないマイクロファイナンス〜カンボジアにおけるマイクロインシュアランスの事例〜 「マイクロファイナンス」と聞くとついついマイクロクレジット(小口融資)だけを考えがちですが、ファイナンス=金融ですから、本来は融資に限らず小口の金融サービス全体を指す言葉です。 現状ではまだ融資事業がほとんどですが、少しずつ預金や保険などの金融サービスも登場しています。将来に向けてお金を貯蓄したり、もしもの時に備えて保険に入ったり、どれも人々の生活の安定のために重要な金融サービスですね。 今回は特にカンボジアにおけるマイクロインシュアランス(小口保険)について、2つの事例を紹介したいと思います。 一つめは、2011年末からカンボジアでマイクロインシュアランスを提供しているKPMIという小口保険会社です。KPMIはフランス系保険会社Prévoirの子会社にあたり、Prévoirはフランスとカンボジアの他に、ポルトガル、ポーランド、ブラジル、ベトナムにも拠点を持っています。カンボジアでは財務省による小口保険に関する規制や仕組み作りが2011年にひとまず完成し、KPMIはその仕組みにのっとって公式に認可された最初の小口保険会社です。 KPMIは直接個人に対して保険を提供するだけでなく、カンボジアの3つの中堅マイクロファイナンス機関と連携して、ローンの借り手に対して小口保険を提供しています。このサービスでは、年間5ドルの保険料を払うと、病気になった際の医療費が最大150ドルまで補償されます。(150ドルはカンボジアの1人当たりGNI(国民総所得)の約4分の1に相当します。)KPMIと提携している医療機関であれば、医療費を一度立て替える必要もなく、直接KPMIが医療機関に支払ってくれます。立て替えるお金を用意するだけで困難な場合もありますから、これはありがたい仕組みですね。 ※KPMIの小口保険サービスに関してさらに詳しく知りたい方は以下の公式サイトやニュース記事をご参照ください(英文) http://www.pkmi.asia/index.php http://www.phnompenhpost.com/special-reports/insurance-poor http://www.phnompenhpost.com/special-reports/micro-insurance-takes-hold 二つめに紹介するのは、LIPが協力するファンドの投資先であるSamicというマイクロファイナンス機関の借り手に提供されている小口保険サービスです。CHCというNGOが提供するMEADAという保険プログラムなのですが、もともとSamicもCHCをルーツとする機関なので、新たに外部団体と提携したわけではなく母体を同じくする仲間と一緒にやっているということになります。もともと2007年にパイロット事業として始まり、千人以上の顧客を獲得。今では約2万人に利用されているそうです。 MEADAの主なサービスは、借り手が死亡してしまった際にローン残高の支払に充てられる生命保険です。例えば、900ドルのローンを借りた場合、年間15ドルの保険料を払えば、万一死亡した際にローン返済が免除されるそうです。保険に加入していれば、一家を支える稼ぎ手がもし死亡してしまっても、残された家族はローンの返済に追われずにすみます。日本でも住宅ローンを借りる時にこのような生命保険に加入することになっていますね。(団体信用生命保険と呼ばれています。) ※Samic, MEADAの小口保険サービスに関してさらに詳しく知りたい方は以下の公式サイトやニュース記事をご覧ください(英文) http://www.samic.com.kh/index.php?option=com_content&view=article&id=14&Itemid=14&lang=en http://www.phnompenhpost.com/business/micro-life-insurance-rise ※また、LIPが作成したSamicのアナリストレポートでもSamicの小口保険サービスについて概要を紹介しています。 http://www.living-in-peace.org/_common/img/pdf/LIP_Report_No8.pdf ※さらに、カンボジアの事例ではありませんが、LIPが協力するファンドの投資先であるベトナムのTYMというマイクロファイナンス機関でも保険サービスを提供しています。こちらもLIP作成のアナリストレポートで概要を紹介しています。 http://www.living-in-peace.org/_common/img/pdf/LIP_Report_No9.pdf このように徐々に発展しつつあるマイクロインシュアランスですが、まだまだ問題も多いようです。2013年に国連が実施した調査では、調査対象となった302人のカンボジア人のうち、17%が現在何らかの小口保険を利用している一方、なんと70%もの人々が過去に小口保険サービスを契約したことがあるものの現在は利用を辞めてしまっていることが明らかになりました。この人々が具体的にどの機関のどのような保険を利用していたのかは不明ですが、サービスの使い勝手の悪さや、契約の複雑さなどが辞めた理由として挙げられています。国連はカンボジア政府や金融機関に対して、より貧困層のニーズに沿った保険サービスを開発するよう求めています。 ※詳細は以下のニュース記事をご参照ください(英文) http://www.phnompenhpost.com/business/micro-insurance-needs-revamp-un 最後に、このニュース記事から、国連のエコノミストの発言を紹介したいと思います。 「カンボジアの貧困層は(病気や不作など)何らかの危機に瀕した時に、マイクロクレジット(小口融資)に頼りがちになっています。このようにして多額の債務を負ってしまうと、世代を超えた貧困の連鎖を巻き起こしてしまいます。」 “low-income communities have become dependent on microfinance loans in times of crisis. This will undoubtedly result in over-indebtment and may lead to intergenerational poverty transmission.“ マイクロクレジットは貧困削減に効果的だと考えられており、実際に今回紹介したSamicを始めとして、LIPが協力するファンドの投資先であるマイクロファイナンス機関でも、ローンの活用により生活が大きく改善した借り手が数多くいます。一方で、病気や不作などの際にむやみにローンを借りすぎてしまうと、返済に追われて貧しくなり、さらに子どもの世代も返済に追われてしまう、という貧困の再生産につながりかねない危険もあります。ローンだけではなく保険も含めて適切な金融サービスが普及し、それによってローンもより安心して効果的に活用できるようになると、貧困削減へのさらなる後押しになりそうです。 今回は実務の観点からマイクロインシュアランスを紹介しましたが、学術的な観点からマイクロインシュアランスを説明した本として、「貧乏人の経済学」第6章 “はだしのファンドマネージャ” がオススメです。ファンドマネージャが資産運用の際に様々なリスクに直面するように、貧困層(章のタイトルの”はだし”はメタファー)も天候、健康、失業、食料など様々なリスクに日々さらされています。この章の最後では、発展途上国で保険が普及すれば、先進国からの補助金も減り、貧困層も自力でリスクヘッジできるのではないか、と展望がまとめられています。興味のある方はぜひこちらも読んでみてください。 (伊藤紘子)

マイクロファイナンスファンドについて

従来の開発援助のアプローチとは違った持続的な支援の仕組みがマイクロファイナンスファンドです。 マイクロクレジットの潜在的な需要は2,800億ドルとも言われています。 しかし、170億ドルほどしか供給されておらず、広く民間からの資金供給が期待されています。 現在、世界で約1億の人がマイクロファイナンスを利用していますが、その一方で、 潜在的な顧客は15億人に上ると言われています。 従来、マイクロファイナンス機関への支援は、国際機関や政府系開発銀行等からの公的援助資金で行われていました。 しかし日本でもODAが年々減らされているように、公的援助資金には限界があり、急成長するマイクロファイナンス市場に、 その資金供給が追いつかないという新たな問題が生じています。 そこで登場したのが、マイクロファイナンスファンドなど マイクロファイナンス投資ビークルと言われる仕組みです。 マイクロファイナンス投資ビークルを通して、マイクロファイナンス機関は資金調達を行い、 先進国の投資家はグラミン銀行のようなマイクロファイナンス機関に資金提供ができます。 言ってみれば、マイクロファイナンス投資ビークルは途上国のマイクロファイナンス機関と先進国を結ぶ架け橋です。 マイクロファイナンス投資ビークルの登場により、従来からのドナーに加え、 社会的責任投資家から年金基金などの機関投資家、 ヘッジファンドまで、実に多様な投資家がマイクロファイナンス市場に参加できるようになりました。 成功したマイクロファイナンスモデルの持続可能性や収益性が認められた結果、 ここ数年でマイクロファイナンス機関の数は一挙に増え、現在は世界に約100以上あります。 2007年には初めて、マイクロファイナンス投資総額に占める民間資金の割合が、国際金融機関からの資金割合を越えました。 * 第2種金融商品取引業者の登録のないLIPは、金融商品の勧誘、募集等の行為は一切行っておりません。マイクロファイナンスファンドにつきましては、提携先のミュージックセキュリティーズ社にお問合せください